「捜索願出してたんでしょ? 奥さんは」
「そうなんだよな」
「で、ウツの病歴とか、通院中とかないんですか?」
「無い。無かった」
「薬の入手経路は?」
「まだわからん。スマホとカードの類が見つかってないんだわ。自宅のPCはほとんど何も出ない。まぁ大方SNSの違法売買アカウントだろうけどな。嫁さんの方もまだカスリもしてない」
「そうですか。それで、浮気はバレてたんですか?」
「これが自殺だったら、知ってたんだろう」
「知ってたよ」
僕はあのつぶやきを思い出しながら言った。幸村さんの表情が少し硬くなった。
「あれか? あのときに岡本に訊いた」
「ええ」
「捨てられた…とか言ってたな」
「置いていくな、です。俺を置いていくな…って」
「嫁にか」
「主語はないです。裏切り者、とも言ってた。返せ、俺の、とか」
それを聞くと幸村さんはため息をついた。
「今回の事件はどうも色々としっくりこなくてな。嫁は旦那の自殺のあらましを聞いて驚いてたが、到底演技には見えんし、かといって間男も旦那が死んだと聞きゃ、びっくりしてしばらく二の句も告げらんねぇ状態だったし。どう見てもあの二人が旦那を殺すようなタマには見えん。身元確認で遺体の確認した嫁の様子も呆れるくらい自然だったしな。関係者はそれぞれが夫婦仲は悪くなかったとも言うしな。でも、嫌疑を掛けられる要件はいくつもある。こっちも裏取るんで温泉街に嫁だけじゃなく旦那の写真も持って聞き込みしてたんだわ。で、やっぱり旦那の目撃証言が出たよ。二人の泊まってたホテルの近くで、それも屍体発見の前日にな」
「挙動不審な嫁を追っていったら都内の女子会じゃなくど田舎の温泉まで行き着いて、間男と一緒のところを発見した、とかですかね」
「それもあり得る。それで自殺なら?」
「捜査を撹乱してるのは自殺した旦那、だとすると全部辻褄は合うんじゃないでしょうか」
「良い線だな。実は俺もその可能性を考えてる」
殺人に見せかけた自殺。妻と間男に殺人の嫌疑を掛けるためには、容疑は完璧じゃなくても全然構わない。これが結局自殺だと断定されても、二人が重要参考人にされて、警察から散々苦痛な尋問を受け、自分の死と妻の不倫がニュースになれば、あの二人には社会的な破滅と関係の崩壊が待っている。よしんば自殺が不成功で未遂になったとしても構わない。妻と間男に嫌疑が掛かる、もしくはニュースになる、それでよい。復讐は実行された。



