「会ってAIセンターの話しただけだよ。あの人に僕の余計な情報垂れ流したのは君の方でしょ?」
「ボクのほうが裕さんと仲良いんだって言いたいじゃん! 牽制です。それに内緒にしろなんて言われてないもん」
「確かにね。KYな君に口止めしなかった僕が悪い」
「だってあんな態度されたらムカつくじゃないですか! 裕さんもあの人に色々言われたでしょ? 失礼なこととかさ」
「仕事の話しただけだって。他人に興味ないの知ってるでしょ?」
「ホントに? それだけですか?」
「ああ。ただ、AIセンターの面倒さにはやられてる」
「ボクも画像解析のアルゴリズムを頼まれましたけどね」
「うん、言ってた」
「ボクにコンタクトするための口実ですよあれ」
「そうなの?」

 半分はそうだろう。半分は本気かもだが。佐伯陸がまた僕の背中に顔を押し当てた。

「AIセンターだって裕さんとお近づきになるための口実だと思うよ」
「さすがにそれはない」
「裕さん、脇が甘すぎ」

 先ほどの清水先生への評価がブーメランのようにこちらへ返って来た。

「メールに書いてた“面白い話”ってまさかこれのこと?」
「そうですよ。久しぶりに引っ掻き回す系の人キターッって。アドレナリン出まくり」
「君が二人目だったね、引っ掻き回す系。これで三人目ってこと?」
「二人目? 一人目は?」
「幸村さん。訊くまでもないでしょ」
「ボクはもう改心したんだもん」
「改心した人間は倒れて早退した人の家にアポ無しで泊まりに来たりしない」
「エロ封印してるじゃん!」
「君、僕の味方なの? 敵なの?」
「少なくともここでチクってる時点で味方ですよ。あのメンヘラ医者から裕さんのこと守らなきゃって、ボク臨戦態勢になっちゃった」
「僕はむしろ、君というメンヘラ数学者から僕を守ってくれる人が欲しいけどね。寝るよ」

 佐伯陸は少し黙った。僕も少し枕を整えて、寝る体勢に入った。

「いつもと…全然違うじゃないですか」

 ポツリと佐伯陸が呟いた。僕は黙ったまま答えなかった。

「清水って人のこと、好きなの? 裕さん」
「無駄な質問だね」
「嘘つき」
「なんでそう絡むの?」
「裕さんのほんとの心臓の音、ボク知ってるから」

 佐伯陸は額をつけたまま僕の背中を拳で叩いた。

「ボクのほうが! ボクのほうが! ボクのほうが裕さんのこと知ってるのに!」

 そうでもない。そうでもないよ、佐伯陸。

「あいつはダメだよ。あれは危ないから。わかってる? 裕さんわかってるの?」

 知ってるよ。僕は彼に殺される。殺してくれるだろう。危ない人間しか僕を望み通りにしてくれない。

「浩輔に言うから」

 いちばん厄介な選択肢を佐伯陸は告げた。