「昆虫標本は好きだけど、虫取りには行かねぇっていうやつ?」
「まったくその通りです。でも虫拾いは良くしました」
「虫拾い?」
「死んで道路とか校庭に落ちてるのを拾うんです。玉虫とかカミキリムシとかはレア、セミは集めやすいです」
「生きたのを殺すとかしねぇの?」
「ですから生きてるのには興味ないんです。何回言えばわかります?」
「ああ…そうか。わかりづれぇなぁ」
「道路で轢き殺されたカエルとか拾ってきて、よく母に怒られました」
こういうところは小島さんはちょっと物分かりが悪いと思った。すごくツボにはまったこと言うくせに、あの時みたいに本人はあんまりわかってないのかも知れない。松田さんはそこはよくわかっていた。だからあの写真集を…と、そう考えたところで、その考えを強引に振り払った。呪いはこうやって忍び込んでくる。
「ここから、特別展ですね。日本の古い時代から順に並んでるみたいです…あれ? 全身のが案外少ないなぁ…」
「やっぱ、松田のほうがお前の趣味に似てるわ。ここ来てよくわかった」
振り払ったはずの呪いが、小島さんに反射してこちらへ跳ね返ってきてしまった。誘導式の追尾ミサイルみたいだ。逃げても隠れても執拗に追いかけてきて撃墜されてしまう。
「でもあいつは生きてるものから命を奪うのが好きなんだよな。そこが決定的にお前とは違うわ」
「もう、松田さんの話、やめませんか」
「あ…ああ」
僕は小島さんも振り切るように、展示の奥に進んでいった。でもそこに待っていたのは、リアル世界に現れた『Suicidium cadavere』だった。



