僕を止めてください 【小説】




 放射線科から僕を医務室に連れ帰った田中さんは、先生に血液やら尿やら心電図を取られている間も、まるで小学生に付き添う保護者のように僕の後ろで様子を見ていた。

「あの…僕、大丈夫そうなんで、仕事戻って頂いていいんですが」

 尿を取ってトイレから帰ってきた僕が田中さんにそう言うと、田中さんは「境先生に岡本くんに付き添ってって言われてるから」と言って、そのまま見守り続行となった。診察も検査も一通り終わり、入院はしなくていいという判断になった。結果を医務室から境教授に電話すると、とりあえず今日は早退して家でゆっくりしなさいと言われた。どこまでも甘やかされてる。それどころか田中さんは、僕を家まで送っていくと言った。

「それはちょっと過保護では?」
「心配なんだよ、岡本くんが。道で倒れて車にでも轢かれたら元も子もないでしょ?」

 最悪の事態が想定されていた。まぁ、そういうものは最悪を基準にするのが合理的だとは思うが。

「いや、それはないと思いますが」
「自転車は乗れそう?」
「はい。多分問題ないと思いますよ」
「私も自転車通勤だから、自転車で後から付いて行くだけだしさ。家について自分の家のドアから入ったと確認して、境先生に報告できるからね。岡本くんって家、ここの近所でしょ? せいぜい行き帰りで10分なんだから」
「ええ、まぁ」
「じゃあ、そういうことで」

 押し切られるままに僕は田中さんに自転車で送ってもらうことになった。特にフラフラすることもなく、いつもの道をいつものタイムでマンションの駐輪場に辿り着いた。一緒にエレベーターに乗り、本当にドアの前まで田中さんは僕を送り届けていた。

「ちゃんと休んでよ」
「はい。すみません、こんなところまで送ってもらって」
「いいんだよ。人生ね、いつ何どき何が起こるかわからないんだから」
「まぁそうですが」
「昨日まで元気だった若者が今日冷たくなってるなんて、よくあることだしさ」
「まぁ…そうです」
「びっくりしたんだよ。だって何もなくて倒れるわけないじゃない? じゃ、また明日ね」
「はい。ありがとうございました」

 そっとドアを閉じた。