僕を止めてください 【小説】




 気がつくと、僕は白い部屋に横たわっていた。寝ているのは多分ベッドだろう。見たことがある部屋だが、モウロウとしていてすぐにここがどこだか理解できなかった。徐々に焦点が合ってくると、どうも病室らしい。ああ、この景色は大学の医務室だったなぁ…と思い出す。しかし、なぜこんなことに? 考えられるとしたら…そうだな…

 たぶんこれはきっと頸動脈洞過敏症候群の発作だろうな、と思いついた。動悸が止まらなくて胸元をシャツごと握ってて、うつむいたままハァハァ呼吸して息苦しかったのが意識が飛ぶ前の最後の記憶だ。苦しくて自分で無意識に絞めたのかも知れない。気を失っている僕を、スタッフの誰かが気がついて運んでくれたのだろう。

 起き上がろうとして身体に力を入れた途端、ズキッと額に鈍い痛みが走った。ベッドに肘をついて半分身体を起こしたまま痛みの元に手をやると、なにやら額にガーゼらしきなにかが貼り付いている。もしや倒れる際にどこかに額を打ち付けたのか?

「あ、起きた起きた」

 カーテンの向こうから田中さんが顔を出した。

「あ、どうも…すみません」
「どう? 大丈夫?」
「えっと…まぁ…とりあえず起きれました」
「うん、良かった。起きたら頭の検査だけ今日中にしたほうが良いって、医務室の先生から言われてるんだけどね。先生は今、昼ご飯食べに行っちゃってる。すぐ戻るって」
「どこかぶつけたんでしょうか?」
「え? 覚えてないの?」
「ええ。目が覚めたら額が痛いので、絆創膏のようなものも貼ってあるし、倒れるときにどこかにぶつけたのかな、と」
「けっこう大きい音したんだよ。ゴツッ…てさ」
「はぁ」

 僕の倒れるときに田中さんが部屋にいたらしい。

「ゴツッ、っていった後に、ドサッて大きなものが落ちる音がしたから振り向いたんだよね。そしたら岡本くんだったというね。デスクの角にぶつけたみたいだよ」
「ああ、そうだったんですか」
「頭ぶつけたから気を失ったんじゃないと思うけどね。気を失ったから倒れてぶつけたんで覚えてないんだろうなぁ」
「すみません。運んでもらったんですね」
「あの担架でね。ごめん、それしかなかったんでさ」
「ステンのあれですか」
「うん。君、軽くて良かったよ。僕と菅平さんで問題なくいけた」

 いわゆる遺体用担架というやつだ。滅多にないすごくそそるシュチュエーションだったようだ。意識がなくて残念に思った。