よくよく思い返してみるとそれは変な思い出だった。驚くべきことに、僕は自殺の画像で自慰できるほどの余裕の中にいたのだ。それはまだ僕がその時期にはあの発作に飲み込まれてはいなかったということだった。

 その頃の記憶を僕は忘れたことはない。でも…なぜだろう? 当然の記憶のはずなのに、僕はまるで自分のことじゃないような、奇妙な感覚を覚えた。

 僕が確かに自殺の画像で自慰していたそのことが。
 
 毎晩発狂もせずに、ページをめくっていられた。そんなバカな…と僕は今更ながらに気がついた。自分でイクのが下手なことだけが今の僕との連続性だった。だがその自分がなぜ今の自分に成れる? それならいつから僕はあの発作に襲われるようになっ…

(もう僕に…君を見せないでよ)

 僕の身体と心が、狂おしいほどの混乱と焦燥に運ばれていったあの頃。混迷が頂点に達し、僕はどうしようもなくて思わず小島さんに電話をしたのだ。自分から誰かに助けを求めた。あれは悪夢のようだった。そうなると僕を変質させたのは『Suicidium cadavere』じゃない。それはただキッカケに過ぎない。

 答えは明白だった。だが、それを僕は今の今まで到底認めたくないだけだった。

(置き去りにして…行ってしまった…)

 自殺した誰かのリフレインが不意に頭の中に再生された。心臓がドクンと打ち、そして掴まれた。至福が永遠に去って、もう戻っては来ない。至福とは、僕へと向けられた本当の殺意。そして絶望とは、僕の人生からそれが永遠に取り去られたこと…

「行っちゃった…僕を置いてった……なんで…殺してくれなかったの?」

 ひとりでに口から溢れていた。それが僕を悪夢へ放り込んだ本当の原因なのか。僕は父への恨み言と一言一句同じ言葉で、再び佳彦をなじっていた。