懐かしい焦燥の中で、なぜか今まで一度も思い出したこともない佳彦との記憶が脳裏に映しだされていた。それはドクター清水に見せられた動画の衝撃のせいなのかもしれない。

 意識が戻って、身体が上下に揺れている。薄っすらと目を開けると、佳彦の顔が見え、いつものように僕は犯されている。すると僕を見た佳彦は、まるで捕まえた蝶が逃げてしまうかのような切ない目をしてまた僕の首に指を這わせて撫で回し、僕を焦らしながら呟く。

(ダメ…まだだよ…僕がイクまで死んでいてよ…ほらしてあげる…君のいちばん好きなこと…ほら…どうして欲しい?)

 僕は意地悪な佳彦の手を朦朧とした意識の中で自分で掴むと、僕の首筋に押し当て、早く落として欲しいとばかりに首を仰け反らせて差し出す。佳彦の欲望を咥えこんだ腰がひとりでにくねって浮く。僕の首に纏いつく興奮しきった佳彦の長くて白い指。意識を再び失う直前の僕の嬌声と射精に佳彦の顔が蕩けそうにほころぶ。その指は僕の首を絞めあげる時にいつも喜悦に震えていた。

 好きか嫌いかもわからない彼に首を絞められてただ犯されるだけの情景。だが、その記憶はとてつもなく甘美な、涙が出てくるような変な感傷を突き動かす何かだった。それを至福というものなのかと僕はその時初めて思った。それならこれは、極めて短く、唐突に終わる至福だった。

 犯されたその熱が冷めないまま自分の部屋で『Suicidium cadavere』を見ながら自慰をして、僕はカッターで性器を切り取ろうとしていた。僕は死を求める自分の性の欲望に抗えなかった。それでもあの写真集を眺めることに僕は満足していた。いままで見てきたどの屍体の写真集よりも素晴らしかったから。生の熱の嫌悪より、僕は屍体の画像を愛でることを選択していた…ほとんど全部が自殺の写真集なのに…