「さっき、小島さん、大きな鎌を持った死神みたいだったのに。優しい小島さんに戻っちゃいましたね」
「や…優しい…って、なにそれ」
「あ、いや、死神の小島さんはもっと優しいかも。僕を刈ってくれそうでしたよね」
小島さんは眉毛を寄せて変な顔になった。そしてプイと向こうを向いた。
「やなヤツだお前。ほんとに13か?」
「はい。ホントです。学生証見せますか?」
「松田の気持ちが今頃になってわかるわ。どうすりゃこんな中1が出来上がるんだよ。親の顔が見てみてぇわ」
「親のせいじゃないと思いますけど。それと僕中2です」
「あっそ」
それを聞くと小島さんはのろのろとエンジンを掛けた。無言でハンドルを切って大通りに出た。
「どこいく?」
「小島さんが行きたいところに行くんじゃないんですか?」
「なんかどうでもよくなった」
「電話で言ってたことを試しに行くんじゃなかったんですか?」
「ああ、言ったよ、色々言ったよ俺がさ」
小島さんはマジな顔になった。
「お前さ、もっと自分を大事にしろよ」
「どういう意味ですか、それ」
「…いや今の…なし」
「え?」
「いいから、聞こえなかったことにしろ」
「なんか…変ですね」
「お前がな」
どうやら実験はやらないみたいだ。それなら僕が行きたいところをリクエストしていいのかも知れない。
「じゃあ、国立科学博物館」
「中学生らしいな。なんか新鮮に感じるわ」
「今、発掘人骨の標本コレクションの特別展やってるんです。会期があと1週間で終わるんです」
「…あっそ」
小島さんは呆れた顔をしたが、そのうちプッと笑った。
「いいよ。まだマシだわ」



