それを聞いた時、一瞬僕の中で憎悪が鎌首をもたげた。同時にドクター清水は顔をしかめて頭を横に何度も振った。嫌悪感を振り払うように。
「殺してやれなかったのはお前だろう!? お前が犯したことであの子はきっと苦しんでいる。あの動画を舐めるようにして吐くまで見た僕は確信してた。さんざん弄んで、冷たいあの子の身体に無理矢理に性の快楽を教えこんで、狂わせてゾンビみたいに生き返して挙句に腹立ちまぎれに捨てたお前を、ユウくんはきっと恨んでる。それを愛されなかったと逆恨みしたお前が腹いせでこの動画を売った! 嫉妬と怒りに任せて復讐したいだけの、卑怯なリベンジポルノ…僕は自分の憎悪を抑えきれなくて、本当に言ってしまった。『なんでこの動画、表に出したんですか? 復讐?』って。そしたらあの男はこう言った。『あの子を手放したかったから。自分だけでこれを抱きしめていると、僕が壊れそうで耐えられなくて…だから爆発する前にドアを開けたんだ。どうせ壊れるなら誰か道連れにしたくて。僕の可愛い悪魔を野放しにして、誰かを同じ目に遭わせてやりたくなった。そして願わくば…自分のせいで壊れた誰かを見たユウをまた、泣かせたい。あの日のように』。道化師が悲劇のヒロインよろしく悲壮感に陶酔しているのが仮面の上からでもわかった。僕はつまり、あの男の思惑通りになったってわけさ。でもそれで別にそれで構わないと思った。君に逢えたことの方が僕には重要だった。だから僕の危惧はたったひとつ、あの後苦しんだ君が自殺してやしないかってことだった。既に君の身体がこの世から抹消されていて、僕がもう二度と逢えないことが心底怖かかった。それで僕は咄嗟にそれを聞いた。『いま、あの子は生きてるんですか?』って。そしたら『生きてるみたいだよ…壊れかけてるらしいけどね…僕のこと…忘れられないんだよ…』って、フフって笑って彼はフラッとトイレから出て行った。僕はトイレに取り残された。それ以上あの男を問いつめられなかった。Aさんに内緒だったし、本当はそういう接触はoff会では禁止だったから。でも僕は心の中で希望を持った。逢える…探せばどこかで逢えるんだって」
そして僕をじっと見つめた。
「僕があの男を許さないのは、君を弄んで狂わせたから。感謝してもし足りないのは、君と逢わせてくれたから…彼の卑怯さが、軽率な復讐心が僕に君をくれた! 彼は天使なのか悪魔なのか…いいや彼は、怯懦で軽薄なただの人間だった…」
僕に力なく微笑みかける顔も、やはりその裏に狂気を孕んでいてまともじゃなかった。だが再び聞いた彼の佳彦に対するその矛盾した非難と感謝は、自分のことのように思えるほどの共感にまみれていた。



