唐突に現れた死の理解者に僕は戦慄した。僕を今日のこの日、ひとしきり苛んで振り回し、僕の汚辱に満ちた秘密を舐めるように食べ、奈落の底に僕を突き落としたこの頭のおかしい放射線科医が、誰にも一度も理解されなかった僕の自己認識についてまるで当たり前のように語っていることが、僕には信じがたい悪夢のように思えた。ある思いが脳裏に浮かび、繰り返し僕をかき回す。それに心が疼いて止まらない。

「モニターを見つめてなぜか青ざめている僕を、Aさんは笑った。エグい盗撮ものだけど、君にはどうってことないでしょ? ってね。それともどっちか知り合い? とか聞かれた。僕は激しい憎悪と嫉妬の中で、この男が誰かを知る必要に駆られた。それで編集のたびにAさんに内緒で動画の仕入先のリストを事務所で探し始めた。でも流石にAさんも個人情報のリストはリアルにもオフラインにもクラウドにも見えるところには置いてなかった。ただ、ハンドルネームみたいなもので匿名にしてある各イベントの参加者リストみたいなものが見つかった。通販サイトの掲示板に書き込んで連絡してる人もいるから、僕はそれらしい人物に当たりをつけて片っ端から情報を集めていった。Aさんにもさりげなくカマをかけてみた。もしかしてこの人、『Suicidium cadavere』の購入者さん? って。そしたら、Aさんが、ノーコメント…って言った。僕は腹の中で笑った。提供者は秘密って言った割に案外簡単だなって。そのうち、きっとこの男もoff会のメンバーだろうという推測が確信に変わっていった。並行している編集の仕事は画面を開くたびに苦痛と渇望で耐え難い時間となっていった。君への激しい恋慕と男への憎悪と、ゾンビになっていく君に今僕がなにもしてあげられない絶望感の中で、僕は震えながら動画の中の君の欠片を探し続けた。音声マイクが感度が悪くて、何を言っているのかよく聞き取れない中で、あの男が君を犯して、イク瞬間に『ユウ』って…君の名を呼びながら射精するんだ。ヘッドホンを変え、音量を上げてノイズを音声ソフトでカットして、何度も何度もそこだけ再生して、それでも足りなくて音声だけ解析ソフトに移植して…最後には何度も吐いた。嫉妬で心が潰れてしまったかも知れない。でもどう聞いてもあいつはそう呼んでいた…ユウ…って。そして、君の欠片は結局13年間、それだけだった。でも僕は、どれだけ掛かっても君を見つけようって心に決めた。僕の人生はその日からそのことに全部持って行かれちゃったんだ。だって君のことしかもう考えられなくなってたから。そして、君を助けようって…きっと苦しんでるからって…僕は…そのことだけ考えて13年間、生きてきたんだよ…」