映像と音を遮断しているうちに、いつの間にかDVDの音がしなくなっていることに気がついた。耳をふさいだまま恐る恐る顔を挙げた…画面が青い。止めてくれた…? 耳を塞いでいた手がひとりでに床に落ちた。

「トラウマ…でしょ…裕くん」

 ドクター清水はリモコンをテーブルの上に滑らせながら、茫然として床に座ったままの僕に尋ねた。あの時より、今受けたトラウマのほうがよほど酷い気がした。

「…知ら…ない」
「僕は、トラウマになった」
「…え?」
「この動画…僕は大嫌い」

 ドクター清水の顔が歪んだ。さっき何百回見たって言ってたその口で、彼はこの映像が大嫌いと言った。本当にこの人はなにがなんだかわからない。自分で見せておいて頭がおかしいんじゃないのか? 無表情になった彼は低い声で続けた。

「13年前、僕はAさんからあるDVDの編集を頼まれた。Aさんはちょっと興奮気味で、『これはもう絶対一般には出せない。グループSでも無理かなぁ』って…グループSっていうのはね、特にエグいもの好きな特別な変態の顧客グループのこと。セレクトされた顧客だから『グループS』っていう」
 
 どうやらAさんの本屋は顧客の趣味とグレードによって販促のグループがあるようだった。

「それから『off会しかないね。でもきっと1枚10万でも売れる』ってAさんは言った。off会って、SNSとかのオフ会じゃないんだ。うちの店の隠語でね、英語で“offender”つまり“犯罪者”っていう単語あるでしょ。それの最初の3文字取ってoff会っていうの。それってDVDの中身を通報も出来ないような性癖を持ってる、サブカルを逸脱してイッちゃってる人たちの特別な秘密の会…クスリとかじゃなくてね、児童ポルノ専門のね」

 児童ポルノ規制法というものが定められてもうかなり経つ。法的な言い方では『性的虐待や性的搾取から児童(18歳未満)を保護することを目的に、児童買春の周旋・勧誘をした者や「児童ポルノ」の制作者・提供者等への罰則を定めた法律』のことだ。中2の僕が犯されてDVDに映っている時点で、関係者はすべて犯罪者となる。

「動画の出所は秘密だった。僕は結構な額のバイト代を提示された…見てから決めると言ったら、Aさんに『見たらやってもらうから』って言われて…高いバイト代に釣られてそのままそのオファーを受けた。顧客の誰かから購入したというのがAさんの言葉の端々から推測できた。それもかなり高額の言い値でそのソースを買ったみたいだった…マニアのAさんが興奮してるんだから、かなりエグいものだっていう気はした」