僕を止めてください 【小説】




「いいようにされてさ。お前はそれでいいのかよ」
「なにか問題でも?」
「それ、口癖な。お前の」
「ああ、そうなんですか」
「よく知りもしない男に犯されてよ。そもそもお前ノンケだろ?」
「え…ノンケって」
「ゲイじゃねーだろ」
「…知りません」

 すぐにどこかに連れて行かれるのかと思ったのに、変な会話が続いた。不意に話題が変わった。

「まだ包帯してんのか」
「あ、はい」
「俺のせいか?」
「わかりません。でも多分、松田さんのせいです」
「別れて、悲しくて切ったとか?」
「いえ、それで切ったんじゃないです。説明しましたよね」
「お前の考えてることは普通じゃねぇから、説明されてもなにが原因か、はっきりわかんねぇんだよ」

 冷気が遠のく。モード1の小島さんに変わっていく。なんか残念な気がした。

「え…僕のこと“屍体だ”ってわかってるんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ、僕が生き返らされたら苦しいってことわかりますよね」
「普通はわからねぇよ」
「小島さんはわかってくれてると思ってた」
「そんなに…死んでる自分がいいのか」
「はい」
「生きてるのは、そんなに苦しいか」
「はい。どうしていいのかわからなくなります。でも小島さん、死ねって、僕に死にたいんだろ、って言ってたのに」
「言ったよ」
「なぜ、わかってるのに聞くんですか?」

 小島さんは顔をしかめた。そして会ってから初めて僕を見た。

「そんなこと、すぐに信じられっかよ」

 人は案外自分自身の言ったことを理解してないもんだな、と思った。