今にして思えば、この前ベッドの中で期せずして幸村さんの口から出たドクター清水の話というのは、なんとも言いがたい不透明な印象だった。
「…そりゃ、死因に関わってる警察医の皆さんとうちの検視官と科捜研とおたくら法医学教室さんが、心置きなく便利に使えるセンターってのが良いに決まってるさ。情報共有も今までより密になるし、そりゃあ理想的だよ。だけどうち(警察)を噛ませない方針のほうが、圧倒的に計画は進捗するんだよな。だってさ、普通は対立構造になるんだぜ、司法サイドとAi推進派の医者とはさ。まぁ最近は死因究明推進の流れで連携取れって建前はあるさ。でもそれを真に受けるような実情じゃないしな。なんか裏で勝算があるのか、それともアメリカかぶれのポジティブ・シンキングなのかね」
「ええ、実は堺教授からも僕にAiセンターの担当者の件打診されましたし…それはほんとうに迷惑な話なんですが…」
「ああ、聞いてるよ。教室代表だってな。放射線科からも出すんだろ?」
「…追い詰められた感満載です」
とはいえ、さすがに立場の違う警察関係者だけあって、堺教授とは違う印象をなにか知っているようなので、敢えて質問してみた。
「幸村さんから見て、清水先生個人はいかがなんですか?」
僕から質問するのが珍しいのか、幸村さんは一瞬、お? という顔をした。
「気になるのか? 珍しいな」
「自殺の屍体をバシバシ検案で対処してくれてる時点で恩人ですからね」
「まぁな。残念だが俺もそう思う。恩人か、なんだか妬けるな…まあいいや。もう会ったのか?」
「いえ、まだです」
「そっか。清水センセ個人って言われてもね。まぁ…いまんとこ掴めんな」
「はぁ」
「理想主義なのか根回しに対する自信なのか…」
「珍しいですね。幸村さんが読めないなんて。ああ、でも僕のこともわからんと…」
「岡本はわかりやすい。マニアックだけど単なるツンデレな好青年だし。わかりやすくていいぞ」
ここまでこじれているのにも関わらず明るく言われる“好青年”と“わかりやすい”という評価に僕は絶望感を覚えた。
「ですからさっき、わからんわからんと僕から根掘り葉掘り一晩かけて供述取ってたのはなんなんですかね?」
「背景がわからんってことさ。岡本の感情はわかりやすいんだ。わかりやすいけどタイミングもパターンも他の一般ピープルとはえらく違うから、なんでそこでその反応なのかって、それが不思議なんだ。まぁ、話し聞いて特殊な人間形成したことはわかった。納得した…それなりにはな」
「じゃあ、清水先生にも根掘り葉掘り訊けばいいじゃないでしょうかね。今日みたいに」
「そうしたいのは山々だがな。作戦が必要だろうよ。裏を見せない相手に正攻法なんかで本音がわかるか?」
そして、フウと溜息をつき、僕をちらっと見て言った。
「会ってみりゃわかるんじゃねぇの? 岡本の特殊な認識力で清水センセがどう見えるのか、正直俺が知りてーわ」



