僕を止めてください 【小説】





 部屋に入ると、服も脱がずに彼はその場で僕を押し倒した。毛足の長いグレーのラグマットが僕の身体を受け止める。でもそのためにこれを買ったわけではない。押し倒された僕は彼にされるがままに服を剥ぎ取られていく。自分からは彼に求めることはない。そういう感覚が僕には欠如していると言われた。それをわかっているから彼は僕を一方的に嬲る。

「あ…うっ…」
「こんなになって…俺来なかったらどうすんだよ」
「…んあ…わ…わかんな…い…」
「自殺かもなって。最近無かったからちょっと焦った」
「ん…」
「来なかったら、本気でどうすんの?」
「困る…かな…」
「お前みたいな腕のいい法医学者はなかなかいない。これ以上お前におかしくなられたら地域の治安に関わるからな」
「いつも職務熱心だね」
「お前が好きなんだよ」

 僕を好きなんて、いつもそれを聞くたびに不思議になる。なぜ生きたものに愛情を感じるのか、僕にはその感覚がわからなかった。署内では中堅のやり手の刑事で、僕がこの管轄内の医大の法医学教室に赴任してきて、最初の鑑定書を書いたのが彼の担当の事件だった。