僕を止めてください 【小説】



「また…昨日の余韻が…のこ…って…だから…こんな…こ…」
「これ始める前に終わってたぞ」
「再燃…で…す…いつも…そうじゃないです…か…」
「それでもいいさ…再燃させられる俺がエラいだけ」
「小島さんが…僕に自殺の…屍体の画像…見せて犯したのなんて…1回だけ…で…す」

 それを聞いて幸村さんの口が止まった。

「だから…イキません…でし…た」
「…そっか」

 するとなぜか幸村さんは僕の腕から手を離し、その腕で僕を抱きしめた。抱きしめながら腰を回して奥まで押し込まれた硬いモノを、ゆっくりとグラインドさせる。前の彼氏の話なんかしながら、よくセックスできるもんだと、その動きに悶えながら呆れた。

「その方がいい。でも、岡本が殴られるのはイヤだな」
「セックスよりまだ…いいです。もっといいのは…首を絞めてくれること…ですが」
「小島ってヤツも、司書のカレと違って、首絞めるのは嫌がったんだろ」
「でも…ほんとに殺そうとしてくれたのは…小島さんだけ…」
「まだ、好きなのか…」

 そう言う幸村さんの腰の動きがさすがに止まった。乱れた息の中で僕は答えた。

「ぼ…僕には…好きとか嫌いとか…の感情なんか…ない…」
「セックスは嫌い、屍体は好き、だろ」
「生きてる…人間に…対して…」
「興味ないんだったな」
「あ…はい…」

 幸村さんが少し身体を起こす。顔を見られている。僕には直視は出来ない。

「俺もか」
「はい…ずっと…言って…ますが」
「一応確認作業」
「うぅ…無駄な作業…ですね」
「俺には無駄じゃないさ」

 いつものように幸村さんは苦笑すると、また腰を使い始めた。

「んあ…」
「ほら、こんな話しながら、こんな硬いまんまだろ。実際ダメなのは…俺の方だ」
「珍しく…しょ…正直ですね…」

 皮肉を言った口を喘ぎ声に変えようと、幸村さんはいやらしく僕の急所をえぐった。僕はすぐに言葉をなくした。

「んんあぁ!」
「岡本が好きで仕方ないんだ。ヒマがあれば岡本のこと考えてる…たまに仕事中に考えてる。これはヤバイ。ダメなやつだ」
「殉職の…盛大なフラ…グ…ですね」
「うん。いつかうっかり犯人から一発食らったりするわな。それでも岡本が好きだ…お前がどこまでも俺を拒んでも、な」

 死ぬんだ。僕と関わるからだ。急に虚無感が襲ってくる。結局、何を言っても無駄なのかと。僕が手渡している死のカードを誰も破り捨ててくれない。早く、早く僕が無害になればいいだけなのに、それがいつ来るかわからない。それなのにここでなぜ僕が唯唯諾諾と抱かれているのか理解に苦しむ。でも、と僕は自分の心の中に、引き締めても引き締めても緩んでしまうような、かすかな一点があるような気がした。

 それは、僕はどこかで無責任な期待をしているのではないか、というものだった。幸村さんに抱かれるたびに、そのほころびが出来てくるような感じがした。

 この、厚かましくて図太くてしつこくてどこまでも楽観的な、生命力の塊のような迷惑で気に障る人が、もしかしたら生まれつき僕に刻印されている死神の命令を抉りとってくれるのではないかと。穂苅さんがいみじくも言ったように、そしてそれをこの人が真に受けたように、もしかすると、この呪いを解いてくれるのはこのひとではないか…と。

 すると、黙ったと思った幸村さんが、いきなりダメな話の続きを再開した。