僕を止めてください 【小説】




「答えろ…お前を誰が捨てた?」

 一度抜きかけたそれが、硬さを増して再び深く貫いてくる。答えもなく喘ぐだけの僕からまた身体を離されそうになる。捕らわれているのを忘れて、その解いた腕をつかもうとした指先が手錠の短い鎖に無情に引き戻された。

 誰かを巻き込んでいることを忘れる。この焦燥感に抗えない。幸村さんを拒否することも忘れて僕は羨望をなにかで埋めようとしている。

「抜くぞ」

 身体の中をいっぱいに埋めていたものが、その間にぬるっと引き抜かれた。

「んあああっ! いやだっ!」
「何された…言えよ」
 
 またたく間にぽっかりと空いたその空虚感が僕をかき立て、慌てて埋めていたそれを引き戻そうと、問われるままに僕は口走っていた。

「ぼくを!…ぼくを…裏切った…」
「誰がお前を裏切った?」
「…そうだよ…行っちゃった……」

 不意に小さい裕の小さな背中が目の前をよぎった。見上げれば白いロープ…空に浮く足…追いかけても、どうしても届かないその身体…

「…僕より先に…行っちゃ…った…」
「誰が行っちゃったんだ? お前を置いて」
「……おとう…さ…」

 朦朧としているにも関わらず、もうこれ以上言えることはなにも無くなっていた。それを聞いた幸村さんはフッと僕から目を逸らした。

「わかった…そこなんだな」
「僕が行きたかった…ぼくが行くべきだったんだ…」
「岡本…」
「誰よりも…誰よりもだ…! だから早く殺せ!」
「嫌だ」
「誰も僕を殺してくれない…あの人…本当は…僕を殺したかったのに…」
「そんなヤツいるか!」
「いたんだよ! 僕を殺して犯したかった」
「キチガイめ」
「キチガイなら良かったんだ…その人は…狂えなかったんだ…逃げたんだ」
「正気だったんだよ」
「ちがう…ちがうんだよ…ずるいんだ…ずるい…」
「…じゃあ、聞かせろ。約束したろ? 岡本はなんでこんなになった…?」

 そう言うと、幸村さんはもう一度僕の中に入ってきた。

「んふ…ぅ」
「切れ切れのピースだけ…俺の中で繋がらん。お前の過去、知りたいってどうしても思う」
「か…こ」
「そうだ。過去だ…なんで岡本が法医学者になったか」

 犯しながら幸村さんの指が僕の性器を嬲る。焦らされて膨れ上がった性感が一気に下腹部を襲う。

「こんなに狂うほど苦しいのに、なんでここまで来た?」
「聞いても…む…無駄…で…す…あっ…あああ! イクぅ…!」

 その後も終われないまま、互いに何度かイッた。出し合ってドロドロになりながら、ある時から僕も幸村さんも急速に眠くなっていた。

「はや…ころ…し…」
「バカ…か」

 最後の記憶はそのあたりだった。