何度も自分で首を絞めかける僕を、幸村さんは最初、自分の手で掴んで留めていたが、そのうちにいつかみたいに手錠でベッドの脚に両手首を繋がれてしまっていた。殺してくれない人に好かれている。どうにかして僕を生かそうと心を砕いている人に愛される。手錠だけじゃない、その不自由さが僕を更に狂わせた。頭の中で冷たいはずの血が滾る。
「頭の中…血の音が響いてておかしくなる…こんなの要らない」
「いつもまともじゃないが、今日は別の意味でオカシイぞ」
説得の言葉がなにも響かない僕の顔を上からじっと見ながら、幸村さんは初めて少し動きを止めた。
「今日はなに言われた?」
「な…に?」
「死体の声。聞こえてるんだろ?」
図星だった。
「お前はいつも聞いてるはずだろ。俺達には聞こえない自殺の死体の声を聞いてるんだろ」
「し…し…知らな…ああっ!」
いきなり覆いかぶさってきた幸村さんに、耳元で吐息と共に逃れようのない問いを注ぎ込まれた。
「嘘だな…俺にはバレてるって。どれだけお前のこと抱いてきたんだって」
今度は耳腔に舌まで入ってくる。答えるまで許さないような身体の問い詰め方で僕に自白を強要する。
「ひぃあ…んっ…!」
「知らないとか…嘘つくなよな。お前はいつもそれを聞いて脳みそが融けそうになってるんだろうが」
そこまでわかってるのかと思うと、幸村さんのことが少しわからなくなった。
「言わなきゃここでやめるぞ。悶えて狂い続けるか? 終わらないぞ…今夜は多分壊れかけてるから」
スッと身体を引きかけた幸村さんに僕はとっさに足を絡めていた。自分でもなにをしているかわからなかった。そんなことを一度だってしたことがなかったのに。
「あっあっ…だめ…抜かないで! 抜かないで…」
「じゃあ、言え。なにを言われてこんなになった? お前をあの世に連れて行ってくれる約束でもしたか?」
「連れて行ってくれるなら狂いやしない! 捨てられたんだ…! あの人は置いて行かれた…ぼくも…捨てられた…」
「捨てられたって…お前は誰に捨てられたんだ?」
幸村さんの声はまるで催眠術師のようだった。知らないうちに僕は誘導尋問に掛けられていた。



