11月に入り、立冬を過ぎると、東北の早い冬が例年のように急激に街を覆っていった。
この地方では毎年必ず、初霜も過ぎた11月下旬に、最低気温が氷点下となる日が2〜3日はある。その年は例年より冷え込みが早く、4日ほど続けて−1℃前後の最低気温が続いた。その中で事件は起きた。
市内のはずれの山際にある、空き家の農家の廃屋に車庫があった。もともと年老いた夫婦が住んでいた農家はその老夫婦の死後空き家になり、土地と家屋を相続したサラリーマンの息子が家主で、彼は街場のマンションに家族と以前から住んでいたためか、相続した土地には長年手を付けてなく、無責任に管理もなく荒れ果てていた。町内会の世話役が荒れ放題の空き家は治安に悪いからと、以前から問題にしていた。
ある日、その近くの交番に、地元の男子高校生がふたり、変な顔をして訪ねてきた。なんでも友人同士で学校帰りにある、いつも通る空き家の軒先をショートカットして通ったら、そのうちの一人が、そこの車庫の中にある壊れた車の中に、誰か座っているのが見えたという。ありえねぇべ、とか言いながら皆で車庫の入り口に立ち、壊れて蔦の這いかけた錆びた軽のワンボックスカーの中をそれぞれ覗いた。
後部座席に男が座っていた。
ホントだ、と皆口々に囁いた。その男性は寝ているようだった。だが、首を前に垂れたまま、変な角度で座っている姿勢に誰もが違和感を感じた。息してっか? 誰かが言った。また誰かが言った。こんなとこで寝っか? 一人が勇気を出して車庫に入り、横の窓から覗き込んだ。そして友人たちを振り返った顔が少し引きつっていた。やべぇんでねぇの? 友人らが口々に言う中、その勇気ある男子生徒は戻ってきてボソッと言った。
「…けーさつ行くべさ」
4人は車庫の前に残り、二人が交番に向かった。ことのあらましを聞いて廃屋に着いた交番の巡査が声をかけても、その男は返事ひとつしないで座っていた。
男は死んでいた。