とはいうものの、秋のうちはAiセンター構想のミーティングの予定日はまだ決まっていなかった。どうやら、その清水というドクターが金策とか人材集めとか研修なんかで、東京やアメリカに飛んでいる日が多いらしく、主要メンバーの顔合わせは、来年の正月以降になるとかいう話を堺教授から聞いた。それを聞いた僕は刑の執行が延期になったような安堵を感じた。こうなったら、どんどん先延ばしになって欲しい、むしろこのドクターがやるやる詐欺かなんかだったらいいのに、とさえ思っていた。

 そして、例の縊死(自殺)で遺棄死体の老婦人の件は、身元不明で手がかりも目撃証言もないまま、捜査は袋小路に入ってしまったようだった。各地の失踪届けや家出人届けの情報とも、今のところ死体が合致しない。
 この事件に関しては、“自殺を隠したい”という動機が僕には一番しっくり来ていた。自殺を隠したいという動機は、幸村さんから犯人扱いをされて、僕の自殺リトマス紙の全貌を強要された、悪夢の始まりの《保険金目当ての焼損死体事件》と同じような構造なのかも知れなかった。

 しかしそれには、事故や他殺に見せかけるための死体が必要であって、こんな風に殺人に見せかけた身元不明死体で遺棄したりするなら、さっさと失踪届けでも出して、警察に全国の身元不明死体を積極的に検証させてDNA鑑定を漏れ無く精査して、これが行方不明になったうちの母です! とか言って偽装した本人が駆けつけてくれないと、保険金は下りないのに…と、僕は保険金詐欺については少々疑問に思っていた。

 自殺かどうか鑑別できなくするために、わざわざ腐乱するまで放置したかったのかな…とも考えてみた。そうしたらそろそろ失踪届けが出されてもいいはずだろう。だが、そんな手の混んだことをしても、真っ先に疑われるのは保険金の受取人なのだから、当然捜査になり、自宅の部屋から自殺の痕跡だの、死体を屋内に放置してた時のルミノール反応だのが出て、死体遺棄事件としてしょっぴかれるのがオチだとも思った。保険金詐欺としての死体遺棄事件としては完成度が低い。まぁ、頭の悪い犯人というだけかも知れないけれど。