「うーん、うーん…むむむむむ……じゃあ、妥協して、3年。3年だけってのは?」

 開いた口を塞ぐことも忘れて茫然と且つパニクったまま止まっている僕を見かねたように、口を尖らせて眉間にシワを寄せた堺教授が、唸った後、渋々口を開いた。

「さ…3年って…?」
「私がここを退職するまで」
「なぜですか」
「だって、退職するときには多分新任の教授が来てるでしょ」
「あ…? ああぁ!」

 ようやく3年の意味がわかった僕は、思わず大きな声を出していた。

「3年我慢すれば、その代表、新任の教授に代わって頂けるんですか!」
「君次第ではあるけどねぇ」
「どっどういう?」
「ちゃんと引き継げるようにしてくれてたらってことよ、私の後任の教授に。引き継ぎ出来るまでにちゃんと問題ないように整理して…ああ、引き継ぎ後もセンターで大学側が肩身の狭い思いしないように、3年間頑張ってコミュニケーション取ってくださいよ〜。資料読んだからわかると思うけど、大学側は大学病院の放射線科からも責任者として参加する旨あったでしょ?」
「…全然、さっき言ってたことと違うんですが?」

 どんどん出てくる後出しのキャストのことを聞きながら、僕は暗澹とした気持ちで堺教授に尋ねた。

「ええ〜? なにが?」
「僕は傍観者でいいと…」
「清水先生には、ってことですよ〜。でも放射線科の先生は紳士ですから、大学の中のバランス崩さないようにうまくやってくれると思いますし。あとは…というか中心は警察医の方が数名かな。あくまで主導は警察医会だからね」

 死体が発見されたとき、まず医師による検案が行われる。死体検案の結果、死亡を確認し異状死でないと判断したら、医師は死体検案書を作成する。異状死の疑いがある場合は警察に連絡し、検察官または警察官が検視を行うことになる。
 だが、検案には解剖を行うことは含まれない。警察と検案医の検案時の屍体の取り扱いは『立ち会い医師からの意見聴取、家族や発見者等関係者からの事情聴取、身体等の撮影及び記録指紋の採取等ができる。ただし、解剖はできない』のである。