「法医学教室があるのに、大学病院側ですら“Ai受け入れるのは医療機関内の病死のみ”だからねぇ。異状死はお断り。県下じゃ、外部の異状死の受け入れしてるのは△□市の私立の総合病院1軒のみだからね。でも遠過ぎるでしょ、あそこじゃ」
「まぁ、隣県の方が近いくらいでしょうね」
「そうそう。それに忙しい大学病院や市民病院じゃ、Aiは撮影が生きてる患者さんの予約でいっぱいだし、遺体やってもスタッフはボランティアだって。しかも専門医は少ないし、屍体の読影は知識もいる。それにさ…」

 堺教授は苦い顔でハァ、と溜息をついた。

「司法解剖でAi使っても、事件性がなかったら警察は経費払う気ないところが多いらしい」
「…まぁ、ありそげな話です」
「普段からボランティア多いのにさ」
「ですね。それと同じ感覚なんでしょう」
「で、そこでその例のドクター…えっと名前なんだっけ?」

 そう言うと教授は机の上の資料をめくった。

「ああ、清水…清水崇一郎先生。要はね、どこも腰引けてるんなら、いっそ異状死体の受け入れ出来るAiセンターを新しく作っちゃおうって言うんだよね」
「はぁ…それはまたずいぶんと前向きな。でもそれってお金掛かりますよね」
「そうそう。それをね、昨今の死因究明推進の流れでね、大学と警察とでそれぞれ予算がついて、あと、厚労省に申請が通れば補助金が出るらしいのね。で、これが計画書だって警察医会から送られてきたものなんだけど…って言っても多分ほぼ清水先生が作ったんだろうけど」

 堺教授は資料の束を手にとって、はい、とこっちに突き出した。僕は言われるままにそれを受け取ってページをめくった。

「あのさ、岡本君。自分で言ったこと覚えてるよねぇ?」
「はい?」
「面接で言ってたでしょ。Aiは興味あるって。ゆくゆくは導入したいって」
「ああ…はい。覚えてます。今もそのつもりですが」

 僕の脳は映像の解析に特化されているので、画像の読影は得意だった。特に壊れている場所は小さくても雰囲気ですぐわかる。僕はその企画書の内容に目をやりながら、半分うわの空で堺教授の話の続きを聞いていた。いい企画ではないか。