「県庁所在地にAiの本拠地を…って話があってさ。聞いてないよね?」
「はぁ…初耳です」
「まぁそうだろうねぇ。ほら、夏に警察医会と親睦会があったじゃないの。あの時にアメリカ帰りの放射線科の先生が新入会員で参加しててね…あ、これ話したっけ?」

 昨日のアレはこの根回しだったのか?と、菅平さんの昨日の一件は堺教授の差金かと疑りたくなるような話題で、僕はちょっとだけこの展開に鼻白んだ。それにしても放射線科だったのか。と、僕は納得した。
 オートプシー・イメージング、Autopsy imagingの頭文字をとってAi、つまり日本語で言うと『死亡時画像診断』のことだ。主にMRIやCTを使って屍体を切らずに内部を画像解析することである。僕がここの法医学教室の面接で「Aiには興味あります」と言ったアレのことだ。

「昨日、菅平さんから聞きました」
「え…菅平君そんなこと言ったの? なんだかなぁ…それでも初耳?」
「ああ、はい。Aiの話はひとつも出なかったんで」
「…じゃあ、それ以外何の話したのよ菅平ちゃんは」

 教授はちょっと意外そうに苦笑した。Aiの話以外で、そのドクターのこと何話すの? と言わんばかりの感じで。その口調から察して、昨日の菅平さんの話は堺教授の画策ではなさそうな感じがした。てことは単なるシンクロなのか、この流れは?

「若いのに腕のいい警察医で、お陰様で司法解剖が減ってるとか仰ってました。話の流れとしては、県警以下、所轄も含めて検視官が増えてここの教室の負担が減ってるとかで、その続きでそういう話が出たんですが」

 それを聞いて堺教授はフンフンと腕組みをして頷いていたが、僕の顔を見ながら口を開いた。

「その彼、まだ若いのにAiの読影のエキスパートでね。本当は勤務してる市民病院で外部から搬送された遺体の撮影もしたいらしいんだけど、病院側が受け入れ体制がなくて、院長に掛け合っても埒が明かないらしくてさ。自分のとこで亡くなったご遺体は必要があればMRIにもCTにも入れるから、全くダメなわけではないんだろうけど、外部の遺体衛生面で取り扱いが難しいからね。受け入れたくないのもまぁ、わからんではないけど。目的も死因究明ってよりは遺族からの医療訴訟対策だし。まぁなんてったって、ここだって同じだからさ」

 ちょっと呆れた様子で、堺教授は肩をそびやかした。