疲れて眠り込んだ夢の中で、僕は久しぶりに小さい裕と話していた。そこはよく見ると、一度だけ泊まった寺岡さんちのベッドに似てて、部屋の四面が本棚になっていて、そこに隙間なくぎっしりと本が天井まで並べられていた。小さい裕はベッドのヘリに腰を掛け、僕はベッドに仰向けで寝ていた。小さい裕の小さい背中が視界に見えていた。

(しにがみってなに?)
(僕だよ。僕のことだ)

 小さい裕は無邪気に僕に尋ね、僕はなんのひねりもなく直球で返答していた。

(なにするの)
(人に死を与える神さま。僕は神さまじゃないね。さしづめ死神の手先ってとこだろうか)
(じゃあ、かみさまにいわれたからやってるの?)

 小さい裕はいつも通り僕を質問攻めにしていく。

(どうだろう…そうだね、手先だったら命令に従っているってことだよね。でも指令があったことなんかないな。僕がいるだけでそうなっていくんじゃないかな。僕に意志なんかないし。意志があるとしたら、興味、かな。僕はその人を興味を持って見たらダメなんだ。その人を意識するとみんな死のうとする。僕達の本当のお父さんとお母さんもそれで死んだんだよ)
(ほんとに?)
(多分ね)
(違うの?)
(推論では、ほぼ間違いなく僕のせいだ)
(どっちなの?)
(うーん…裕はいつも知りたがりだな)
(ほんとうのことがしりたいんだ)

 どこかで電子音が鳴っている。僕は寺岡さんのベッドで目覚まし時計を探した。どこにあるんだろう? 確か枕元…
 手で探るとそこに小さい瓶が置いてあった。見たことがある…“Devotion & Trigger”? 紫色のラベルにはそう書いてあるような気がする。ああ、ここは佐伯陸の部屋なのか…

(兄貴を返せ…)

 部屋のどこかから男の人がベッドに上ってきた。いつものグラサンを掛けていた。

(…トミさん?)
(兄貴もお前のせいで死んじまった! お前が兄貴と寝たから…お前さえいなければ俺は…)
(穂苅さん…死んじゃったの?)

 信じがたいその言葉。あの人、僕のせいで死んじゃったの? そんなわけない。あの人はナイフの神さまに守られてるんだろ? トミさんの誤解に違いない。

(トミさんの思い違いじゃないんですか?)
(俺はお前を殺す。お前はこの世に居ちゃダメな人間だから)
(穂苅さんは死んでないでしょ?)
(お前を殺して俺も死ぬ)
(ダメだよ、トミさん。僕は死んでもいいけど、トミさんは人殺しになっちゃうよ)
(死にてぇんだろ? 殺してやるよ。俺が殺してやるよ…)

 トミさんは寝ている僕の胸ぐらを掴んだ。