僕を止めてください 【小説】





 僕の両手はこのほんの数分の間にベーカリーの袋とパック牛乳でそれぞれ塞がっていた。これも勝手な埋め合わせの一つなのであろう。仕方なくそのまま僕は居間のテーブルに直行した。袋を開けると、サンドイッチが出てきた。なにか食べてる余裕なんてなかったな、昨日の夜から。サンドイッチの他にまだなにか入ってると思ったら、この前もらったドリンク剤の朝飲むヤツが2本入っていた。まぁ、取り敢えず歯を磨こう。そう思って僕はキッチンに立った。

 足元には昨日の空の牛乳パックが転がっていた。食べてないことを幸村さんが来るまで気が付かなかった。このだるさはもしや低血糖? 朝の吐き気も空腹でか? 確かに食べずにただ寝ていたわけじゃない。あの激しい行為でカロリーも水分もタンパク質もかなりの量を失ったはずだ。エグゾーストと言うべきだろう。具合も悪くなるわけだ。寝不足だけじゃなかったんだな、と、歯磨きのあと空の牛乳パックを潰してゴミ箱に捨てた。

 サンドイッチを食べ終わりドリンク剤を1本飲むと、だるさが3分の2ほど回復したような気がした。本当に低血糖だったんだなと感慨深い思いで、食べた後のゴミを捨てにキッチンに行った。ガラス瓶は洗って分別しなければならない。回復はしたものの、幸村さんの勝手な埋め合わせが体調面で効果を上げていることに僕は複雑な気分になった。そのあとすぐに堺教授に電話して、今から出勤します、出来ます、と告げた。着替えながら、そう言えばなんで幸村さんは僕が午前中休んでたって知ってたのだろうと不思議に思った。教授に業務連絡ついでに僕のこと聞いたのかな?
 
 着替え終わってからスエットのズボンを床から拾い、尻の辺りを調べた。生地が多少毛羽立っていたがどこもほつれてはいなくて、あのプチプチいう音を幸村さんがどのように立てたのか見当もつかなかった。見終わったスエットを上下まとめてベッドの掛ふとんの下に突っ込み、残業も予測して残ったドリンク剤をカバンに入れ、部屋の電気を消して出勤した。12時半頃だった。