布団に倒れこんですぐ朝になっていた。ベッドに磔にされたみたいに身体が殆ど動かなかった。この状況で仕事に行けるのか? 無理だ…と、また堺教授に病欠の電話を入れることを考えた。幸村さんはちゃんと仕事に行ったのだろうか。3時間くらいしか寝られないだろうに。トイレに行きたくて、ようやくベッドから這い出したが、立った途端、立ちくらみがしてもう一度這いつくばった。吐き気がしてきた。
這ったままトイレに向かい、吐き気をこらえて便座によじ登る。小便を出す間に耐え切れなくて、手で口を塞いでえづいた。吐瀉物は出なかった。寝不足で辛くて仕事にならなければいいんだ…少し反省したほうがいい…幸村さん。と、空えづきの後便器に座り込んだまま強くそう思ったが、これくらいの寝不足で潰れるような人だとは到底思えなくて、それならやはり僕が潰れたほうがあの人の反省材料としては説得力があると思い、部屋に戻ってすぐに上司に電話することにした。反省材料でなくても、この状態では実際使い物にならないようだった。
「すみません…吐き気と立ちくらみで動けなくて…今日休ませて頂くことは可能ですか? 明日には回復していると思うんですが」
教授はうんうんと心配そうに僕の話を聞いて、僕の状況を確認した。
「風邪? 熱はないの?」
「風邪ではない…と思います」
「昨日の後遺症ってやつかなぁ?」
「あ、ええ…それもあると思います。明け方まで寝られなくて…」
嘘ではない…が、良心が咎める言い訳だ。
「ああ、それはマズイねぇ。どうだろう、昼までちゃんと寝て、その時点で体調が戻ってたら午後イチで出勤てのは?」
なんと的確なサジェスチョンだろう、と僕は堺教授の状況的バランス感覚に心底感心した。なんだか昼には動けそうな気すらしてきた。
「ああ、それは助かります。良くなってるかも知れません」
「じゃあさ、いづれにせよ12時くらいに僕に電話してよ。その時点で動けなかったら1日休んだらいいよ。とにかく昼に判断ね。いいかな?」
「それでよろしくお願いします。ご迷惑お掛けして…申し訳ありません」
「まあ、具合悪いのに仕事したらそのあと長引くでしょ。ちゃんと回復するほうが後々合理的ですよ」
「恐れいります。ありがとうございます」
「それじゃ、早く寝てね〜。起きたら電話してね〜」
「はい。では失礼致します」
甘やかされていることが後ろめたくなった。僕はこの待遇に見合う仕事をしているんだろうか? 僕はそれほどの人材なんだろうか。そんなことを考えているうちに吐き気がぶり返してきたので、思考を停止して僕はもう一度布団に潜り込んだ。気がついて11時半に目覚ましをセットした。
気がつくとなぜか耳元でアラームが鳴っていて、セットした目覚まし時計を手に持ったまま寝ていたことにも気づいた。目覚ましを止めた途端に今度は枕元に置いていた携帯がいきなり鳴り響き、僕をギョッとさせた。堺教授かと思い、焦って電話口に出た。



