僕を止めてください 【小説】




 僕たちはしばらくそのままでいた。シャワーの音だけが響いて、密着したまま互いに無言だった。僕はすでに抗う気力も体力も一切なく、果てたままの身体で幸村さんの重さに呆然としたまま押しつぶされていた。おかしな興奮の仕方をした身体が自分で信じられなくて、胃の辺りが恥ずかしさで痺れていた。終わったはずの発作を再燃させられたと思えば良いだけのはずだが、でもこの感覚は初めてではない気がした。この人に弄くられて、いつかもこんな風になったような。でもそれを認めたくも思い出したくもなかった。
 
 シャワーの湯の落ちてくる感触に僕の鈍感な皮膚でも飽きてきたころ、先に幸村さんがダルそうに身体を横にずらしてタイルに腰を落とし、おもむろに上体を起こした。そのままなにも言わずに面倒そうに石鹸でまた身体を洗い、床に転がっている僕の身体にも黙ったまま石鹸をなすりつけて泡立てた。そこでも抗う気力は起きず、なにも言わずされるがままに僕も洗われていた。自分の身体と僕の石鹸を流したあとに、スッと手が伸びてきた。その手に右手を握られ、引っ張られて僕の上体もキョンシーみたいにふわっと起き上がった。

「軽…」

 思わず幸村さんが呟いた。ものを言う気力もなくて、僕は呪符を貼る前のキョンシーみたいにそのまま項垂れていた。

「悪かったよ。好きでもないセックスさせて」

 ずっと黙っている僕に気を遣ってか、幸村さんは変な謝り方をした。どういう意味だろう。わかってやってるくせに。謝るならやるなっていうの。そう思ったが、勃ってしまっただけでなく、またイッてしまった後ろめたさに、僕は曖昧に肯定するしかなかった。 

「ああ…まぁ……そう…ですね」
「なんでよがってたの?」
「……さぁ…」

 後ろめたさの核心を突かれて、ますます僕は顔を起こせなくなった。引っ張られたまま手を握りしめられるのも、とても恥ずかしかった。

「嬉しいんだけど」
「……ヌカ喜び…としか」
「俺さ、ほんっと岡本のこと好きなんだなって自分で思うんだ」
「話、聞いてます?」
「うん。好きで好きでさっき気が狂いそうになった。いやぁ、ほんと好きなんだわ」
「聞いてないですね……とっくにオカシイんじゃ?」
「まぁ…な。そうとも言う」
「バカですね。僕を好きだなんて」
「バカだよなぁ…岡本の言うとおりだわ」

 否定もせず笑いながら僕を立たせると、幸村さんは脱衣所に僕を押し出した。棒立ちの僕の身体をバスタオルで拭くと、いきなり尻をペシッと叩かれた。

「なにするんですか」
「ほれ、早く服着てくれ。岡本の裸見てると今日はいくらでも襲いたくなる。目の毒だ」

 それを聞いて僕は転がるように部屋に逃げた。布団の下から大急ぎでスエットを引き出し、ふらふらしながら着替えた。