僕を止めてください 【小説】



「またそれですか! 俺が納得、俺が納得…っていつもそれだ…それを盾に僕の傷を好き勝手にほじくり返して! 幸村さんを納得させるために僕はこれ以上どんなことをさらけ出せばいいんですか? なにが欲しいんだ!? あなたは僕をどこまでかき回せば気が済むんですか!?」

 一瞬、幸村さんは絶句した。そして初めて僕から目を逸らした。それも悔しそうに。

「なんで悔しそうな顔するんですか…僕の中に土足で入ってこれないから? それとも…」

 するとそのままの目線で、そのままの表情で、悔しい顔と同じくらい悔しい声で、幸村さんが僕の言葉を遮った。

「だってお前は…もう前のお前とは違うだろがーよ! もう一度、元の殻の中に戻ってみんなをシャットアウトして、お前だけの狭い世界に自分を監禁しようって思ってんだろうが…もうその殻は使えねーんだって! 自分だってわかってんだろうが!」

 今度は僕が不覚にも言葉失った。何か言わないと、と僕は必死で言葉を探した。沈黙したらそれを肯定したも同然じゃないか。それなのにどうしたことか、頭の中が白くなったみたいに、僕の口からはいつもの反論が一文字も出てこなかった。

「…やっぱり…わかってんのか。そっか。わかってんだ、お前」

 黙っている僕をなんだか悲しいような優しいような複雑な声と顔で、幸村さんは壁に着いた両手をだらんと下ろした。

「お前が使い古した殻で、俺を排除するなんて出きっこないだろが」
「だとしても…殻のこっちは…死の国だから…」

 かすれた声がようやく喉から霧のように曖昧な単語を羅列した。

「死の国がどうだろうがなんだろうがさ、殻が壊れちまえば生きるも死ぬももう境目なんかねーさ。俺が自由に行き来してやる。お前を連れて、一緒に、自由にな」

 幸村さんは僕を見下ろした。そして両肩に手が置かれた。

「お前だってこの壁は不自由なんだろ? だから俺が壊すって。お前のために壊す。俺には出来る。本当だ」
「…いつもの自信ですね。ほんとに感心します」
「自信じゃねーよ。そう決まってるんだ」

 そして息を一瞬大きく吸うと、何かを決めたように僕に囁いた。

「呪いは、俺が解く。他の誰でもない…俺がな」