わからないのにわかったというのも変だった。でも僕は理由のわからない抑止力のようなものを母親に感じた。そんな風な有無を言わせないなにかを母親は語ったようだった。
「また、ちゃんと話をしようね。寝られる?」
「わからない」
「起きててもいいわ。私も起きてる」
「部屋で寝るよ」
「じゃあ、お母さんもあなたの部屋で寝るわ」
「いい。僕一人でも今は死なないから。一人にして」
「ほんとに? ほんとに大丈夫なの?」
「なんか今は死ねない」
「ホントなのね? 明日になったら病院に行くからね。傷は痛くないの?」
そう言われた途端、手首がズキズキしてきた。
「痛い」
「痛み止め飲みなさい」
そう言うと母親は救急箱から痛み止めを出した。汲んできてくれたコップの水を手渡され、僕は言われるままにそれを飲んだ。そして部屋に帰った。
机の上に置いた携帯には何件も着信が入っていた。小島さんからだった。母親とやりとりしてる時間が長かったのでかけたんだろう。こちらから掛け直した。
「もしもし」
(ああ、ちゃんと生きてたな)
「母親に見つかりました」
(えっ)
「死ぬなって釘刺されました。とりあえず、なんだかわからないけど今死ぬのはやめます」
(まぁ、そうしろ…死ねとか言って悪かったよ。本気で死のうとするなんて思わなかったぜ)
「いえ、ですから、ありがとうございます」
(嫌なこというなよ。俺が殺したみたいじゃねーかよ、お前死んだら)
「そんなことないです」
(まぁ、見つかって良かったかもな。俺とか松田のこと言うなよ)
「わかってます」
(じゃあ、ちゃんと寝ろよな)
「はい。おやすみなさい」
それからすぐに、なぜか眠れた。何日も眠っていなかったからだろう。



