僕を止めてください 【小説】





「なんでやめなきゃなんないの?」
「それだけはやめて」
「なんで?」
「なんででもよ!」
「そんなの理由になんない」
「お願いだからやめて…」
「言わなきゃよかった」
「ダメだって言ってるの! 言うことを聞きなさい!!」

 母親が叫ぶように僕を制止した。僕の腕を母はいつの間にか強く握っていた。

「最近、なんか変だって思ってた。なにかあったんでしょ? 何があったの? 言えないようなこと?」

 意外にも母はそんなことを言った。色々見てるんだな、と、僕は母親が気が付かないと思ってた認識の修正をした。きっと頬を腫らして帰ってきたことも何も言わないけど知ってたんだ、と。

「僕のこと、見てたの? わかんなかった」
「見てるわよ…わからないかも知れないけど」

 そうなのか。僕はまた新しい認識をした。でもなにがあったかはさすがにこれ以上言えないな、と思った。男の人に犯されたり、首を絞められて射精したり、自殺の写真集でオナニーしたりしたことを。

「でも、死にたいのは変わらない。もともと僕は生きてるものに興味ないんだ」
「なに、それ…」

 母親はまた絶句した。こんな話、母親としてるなんて自分でも驚く。こんな会話、生まれて初めてだった。佳彦のせいで、また人生初めてを経験してる。

「とにかくダメ。絶対に死んじゃダメ。あなたを産んだお…」

 そして何か言いかけてまた黙った。じっと何かを考えてるようだった。僕もそれを黙って見ていた。すると意を決したように母親が僕の目を見てこう言った。

「お母さんが一生懸命産んだのよ。死ぬために産んだんじゃないから。それだけはわかってね」

 びっくりした。それは本当に想像もつかない言葉だった。それを聞いたら、いますぐ死ぬのはためらわれた。少なくともそういう気持ちになった。なにがなんだかわからない。でも僕は母親に言った。

「わかった」