僕を止めてください 【小説】




「んっ…!」

 思ったより狭くて、黒いホールよりずっと柔らかい肉様の孔、その中にザラッとした舌、陰茎の根本に当たる歯の感覚…様々な感触がカスケードで襲ってくるその変な感覚のリレーは、今までされた何人かのフェラチオとはその誰のものとも全く違っていた。しかし当然ながらさっきの黒いホールの感覚とは全く異質で、僕の小脳はありがたいことに唐突な未知の刺激によってまた騙されかけていた。僕はゆっくりホールを引いてみた。

「んっは…」

 動かすとまるで複数の何かに犯されているみたいに感じた。変だ…変になる…感覚の統一性が無くて意図も方向もバラバラで。

「んんっ…んっ…ん…あ…」

 思わず声が上ずった。妖怪…というより、これは“キマイラ”だ。ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つギリシャ神話の怪物。ナマコのような管状のはらわたで先っぽを柔らかく飲み込まれ、獣のようなザラザラした舌で舐めとられ、薄い前歯が亀のように付け根に噛み付く。それぞれがなんの脈絡もなく自分の欲望だけを満たそうと、手前勝手に僕の性器を貪り続けているかのようだった。そして結局は全員が僕を喰らおうとしていた。

 それがなにか僕の性器を切り取ってしまいたいという例の欲望に火をつけた。

「ああ……早く…食べろよ! さっさと噛み切って食べちゃったらいいんだ!」

 自然に歯のついた口の部分を両手で鷲掴んで、僕は自分で自分を咀嚼させていた。噛み切らせたい…寺岡さんの半分本気の咀嚼力を思い出す。その力を掛けられるのか、このABS樹脂の歯に…

 持ち方を変え、上下の咬合を合わせて一気に根本を噛み締めさせた。

「くぅ…!」

 かなり食い込むが、やはり自分の股間に添えた手ではそれ以上は上手く力が入らない。どうしていいかわからず、焦燥のまま噛み込ませたまま腰を前後に動かすと、歯がゴリゴリと根本をしごく感覚に違う快感が膨れ上がってきた。たまらずにそのまま、歯で根本を削るように無茶苦茶にホールと腰を前後に動かし続けた。

「は…あっあっ…ああああっ!!」

 皮膚が擦り剥けるような刺痛が走ったと思ったら、そのまま僕は発射していた。腰が抜けるような浮遊感が下半身に広がる。さっきの黒いホールとは違うイキ方。機械的な自動的にイッた感じではないが、インキュバスのような魔物によってたかって搾り取られた、この世のものではない虚脱感があった。