僕を止めてください 【小説】




 再び身体を起こし、冷蔵庫にもたれ、精液でヌメる指先でローションの蓋をどうにか開け、左手に持った妖怪のようなホールの口の中に透明な粘液を垂らした。一瞬、人間の体液を餌として食べさせている錯覚に陥った。妖怪を飼ってる気分とでも言おうか…

 実際、このホールに自分の性器を押しこむのはとてつもなく変な感じだった。黒いホールは無機質なただの道具だったが、このフェラホールは妙な生々しさがあって、その感じは僕の不得意な変な生命感を漂わせていた。今まで自分から他人の口に性器を押し込んだことなどない。これが無生物だとわかっていても、形状からくる視覚的効果で僕は挿入を躊躇させられている。その違和感は複雑な様相を帯びてきた。人にすら自分から入れたことがないのに、“ヒト”ではなく“妖怪”の口に中に自らの性器を挿入するのだ。元々自分が狂っているのを知っているのに、更に妖怪の口の中に自分の性器をわざわざ自分から挿れるという行為が、その狂気の更に常軌を逸したものに思えてくる。

 狂うというのはどこまでも果てがないんだな…

 狂気の上塗りをするというその場面で、僕はなにか遥か遠い景色を見ているような気分になった。ついでに自分の気も遠くなっていくようだった。それにつけ込むように頭の中が性感で痺れてきた。

「だ…め……」

 身体を起こしたのにまた床に倒れ込みそうになっていく。疲労も相まって、平衡感覚がおかしい。でもムダな時間を浪費してる場合じゃない。倒れたらその体勢ですればいい。それに挿入を躊躇するのはビジュアルの問題だ。この妖怪を視界から除外すればいい。僕はそのまま抵抗せず、ドサッと横向きに床に倒れた。掴んだホールの入り口を手探りで自分の性器にあてがった。先っぽが歯に当たった。そのまま僕は一気にホールに性器を突き挿れた。