長く、不安と焦燥に満ちた時間だった。さっきの神経を剥かれたような感覚は同じはずなのに、僕の性器はどこか切迫感を失っていた。興奮の中の疲労感とでも表現すればいいのか。神経の特性は5つあって、そのうちの一つが『易疲労性』という。神経はすぐに反応するが、一度興奮した後は復活するのに時間がかかるのだ。それは神経というものがホルモンみたいなもの、つまり化学伝達物質というものにスイッチを支配されているからだろう。これは神経の細胞体から産生されているが、使用後も再取り込みなどのエコロジーなシステムがあり、ムダに垂れ流されているわけではない。
だが、高頻度刺激や酸素不足による伝達の易疲労性が化学伝達には生じる。再利用されてはいても、シナプス伝達が頻回行われることにより、伝達物質が当然ながら枯渇してしまい、シナプス前膜まで活動電位が来ても、シナプス後膜に活動電位が発生しにくくなる。勃起中枢や末端神経はまだ疲労していないのに、射精する神経はこの黒い強刺激ホールにより早速疲労を起こしているというのが考えられた。
そして逆に高頻度刺激後に伝達がかえって促進する反復刺激後増強という現象があり、シナプス後膜の感度が増大し,シナプス伝達の効率が増大する。これによって反復される行為や運動、思考は直後のパフォーマンスを増大させるという。
勃起の持続はこの原理か…?
意味不明な思考の専門化が生じた。こじつけでも理屈をつけないと狂乱してしまいそうだった。それは僕の逃避的な思考回路でもあった。考えたくはなかったのだ…あの時のように、他者による果てしない愛撫と性行為で朝まで身体を慰め続けなければならないなど。折角ここまで来たのだ。久しぶりに自分でイケたんだ。独りで最後まで成し遂げなければ意味がないのだから。
しばらく黒いホールで粘ってみたが、疼きが広がっても射精には至らない焦燥の中で時間が流れていった。僕はホールを変えてみるしかないと思った。もうひとつの、歯の生えたアレに。刺激の質を変える、そしてあの歯で力いっぱい噛ませる。僕は力の入らない指先で、ようやくジップの袋から不完全な顔のついたホールを取り出した。その造形は今見ると、子供の頃に日本の妖怪図鑑で見た何かに似ているような気がした。



