僕を止めてください 【小説】




 候補1…ハードタイプで硬い素材を使用。中に刺激性のある硬めの突起やヒダ構造などが密生している。とはいえ実際僕は男性としか性行為をしたことがなく、しかも手と口しか知らず、その上女性とセックスしたことがないので、中がどんな具合かなど比較などできる経験もない。レビューで『かなりゴリゴリ感がありハードホールの中でも最も硬い部類に入る』と書いてあったので候補に残った。色が黒いのと、作りがリアルではないのも視覚的な異物感度も高く、小脳をごまかせる気がした。後は使って見て判断。比較的安価なのが良い。

 候補2…挿入孔が口の形をしているので、ホールはホールでもオナホールではなくフェラホールと呼ばれているらしい。目はなく、鼻から下の顔がかなりリアルに造形されている…僕には不必要な形状だが。しかしこのホールの最大のポイントは“上下に歯が付いている”ことだ。レビューを見ると『歯に性器が当たって痛いから歯を抜いた』とか『歯の当たる感覚がたまらない』とか『中がかなり狭く、喉を犯している感覚がリアル』『舌がザラッとしてて硬めなのが意表を突かれる』などとあって、これも異物感が決め手だった。寺岡さんに噛まれてイッた経験から、性器を上下からこの歯で挟み込んだら同じような感覚が再現できるかも知れないという可能性を感じた。作りこんであるので少々高いが予算内。

 結局、この2つを買うことにした。2日くらいして通販から“電子部品”という名目で周囲にバレないように送られてきた。配慮されているものだと少し感心した。梱包を解き、製品のパッケージを開ける。候補1の方は造形が無機的で黒い筒のような感じだった。指を入れてみると中でボコボコした突起が内側にびっしり付いていた。

 そしてもうひとつを開けると、かなりリアルな顔が出てきた。持った感じは黒いハードタイプと比べてプニプニしている。柔らかいシリコンのようだ。唇をめくると、歯が現れた。上下の歯列を開けると舌があった。指で舌に触ると確かにザラッとした感触がした。その顔を見ていたら医大時代の、救急法の授業で使った心肺蘇生の実習用人形を思い出した。その人形よりリアルだった。華奢で小さい作りと唇の形が佐伯陸に少し似ていた。

 おまけでローションのサンプルが入っていたので、2つのホールと一緒にジップロックに封入して冷蔵庫に入れた。発作時にこれが冷えていると取り敢えず少しは頭がはっきりするのではないかという推測をした。その時点では試しに使ってみようという気すら起きなかった。

 そして今日という日を迎えた。