僕を止めてください 【小説】




 新しいシステムとは、自慰の道具であるオナホールのことだった。これは、勃起した性器を自分の手で触っても感覚が鈍くて最後までイケないという、発作における最大の障壁を打破するための…つまり幸村さん無しで、幸村さん以外の人間の力も借りずに、この部屋で独りで最後までやって発作を終わらせる計画の一環だった。

 自分で触っても鈍いのに、他人が触ると感じるというこの現象は『自分で自分をくすぐってもくすぐったくない』という未だに解明されていない神経と大脳のブラックボックス内の処理によるものらしい。一説には小脳が予測された刺激に対して、その信号を打ち消す処理をするんのではないかと言われている。しかしもともとの皮膚の触覚が鈍いのに、なぜ他人に、しかも性的に興奮した時にだけ性的な感覚だけが鋭敏になるのかという僕自身の問題は未だに謎だ。

 感覚の鈍麻問題をオナホールで解決しようと思いついたのは、堺教授に説得されたあの日からしばらく経った夏の初めだった。生身の人間じゃなくて人形や道具だったらいいのではないか、という可能性に気づいてから、いろいろと調べてみると世の中にはダッチワイフなるものが存在し、セックスの相手をするためだけの女性の形をした人形だとの事だった。通販で探し、法外な値段がついていて断念した。ヒト型の空気マクラ的なモノは安いが、果たして僕の要求が人型である意味があるのか? とも思えた。すると同じ通販サイトにオナホールなるものがあり、挿入する部分だけを取り出してコンパクトに使えるようにしたものだとわかった。値段も安いものから高いものまであるので選びやすかった。

 無駄な出費をしたくないので、様々な角度から自分の要求に合ったものを探した。色や形状など生身ぽくないもの、刺激が強く、麻痺してても感覚がわかるもの、それほど高くないもの、繰り返しある程度使えるもの…などなど。そして候補が2つに絞られた。