「何してるの?」
「手当」
「なんの?」
「切った」
「どこ切ったの?」
「手首」
母親はそこで黙った。そして僕の直ぐ側まで近づき、僕の包帯を巻いた手首をそっと持ち上げた。
「なんで怪我したの?」
「怪我じゃない」
「じゃあ、なに?」
「自分で…切った」
母親は僕の顔を見た。その顔が恐怖で歪んでいるので、僕は驚いた。
「どうして自分で切ったの?」
「死にたかったから」
「どうして…」
母親はそう言うと絶句した。
「生きてるのが…嫌だ」
「…なんかあったのね。学校? もしかして、裕、いじめとか」
「違うよ」
「じゃあ、なに?」
「死んでたのに…」
「えっ?」
「僕、ずっと前から死んでたのに…生きてるって最近知った。それで元の僕に戻りたくて死のうと思って…」
「やめて」
思いも掛けないような強い口調で母親は僕を制した。そんなことをそんな調子で僕に言う母親を初めて見た気分だった。



