全てが終わったのは4時間後だった。腐敗が進み、しかも(僕の中では)自殺→死体遺棄事件。そんな電波なことをあからさまに言えるわけ無く、どうにかしてなにかその流れを示すものを早急に出して、死体遺棄捜査の必要を暗示せねばならなかった。骨の損傷を見たくてX線撮影も強行した。途中で気が狂いそうになった。2時間のところで我慢出来ずにトイレに直行した。ミントを大量に吸い込み、性器と下着の間に直接保冷剤を挟んだ。
骨棘の形成度合いと骨量の密度から、年齢は75歳〜80歳。X線に生活反応のある手指と頬骨の骨折の痕跡が見つかった。歯は総入れ歯の可能性が高く、一本も残っていなかった。骨盤と頭蓋骨の形から、やはり性別は女性と断定した。死亡推定日は3週間前。気温が高く、腐敗が進んだと見える。
そしてX線の画像から、骨粗鬆症のこの女性は頚椎を骨折していた。縊死を示唆する痕跡を僕は得た。これにも生活反応があり、この直後に死んだと思われる。青木三穂の母親のような舌骨の骨折はない。肺の溺死の兆候はまだ不明で、珪藻の検査が必要だった。
やはり老女。ここまで腐乱と損壊をしていなければ皮膚から索状痕などがわかるのだが。しかし、なんだろう…この深い穴に飲み込まれていくような感覚は? これはまるで蟻地獄の砂の中に落ちた生贄みたいな恐怖…それにどんな状況なのだろう? 部屋で自殺して葬儀も行われないまま山林に遺棄されるというその状況は?
「…あの…発見現場に首吊りの縄は?」
「いえ、それは発見当初、自殺の可能性有りと見て周囲の木と地面を念入りに調べたんですがね。索状物が見当たらないのですよ」
警部の池谷さんが答えた。僕は恐る恐る彼に意見を述べた。喉がカラカラで声が上手く出ない。
「もしかすると…頚椎の状態からして…首吊り自殺の死体遺棄…の…可能性が」
「うーん…わからないではないんですよ…その可能性も」
「なぜですか?」
すると池谷警部はまだ僕の聞いていない捜査の経緯を話し始めた。



