僕を止めてください 【小説】




 母の骸骨に抱かれている自分を思い浮かべることは容易い。夜、ベッドの上でひとり仰向けで寝転がり目を閉じる。

 本当の母…死の胎…僕のシェルター…死の聖母…そして願い…

 願い…どうせ願うなら…誰も悲しまずに僕が今すぐ死ねますように…そう願ってもいいのだろう…死の聖母がどんな願いでも奇跡のように叶えてくれるのであれば…僕は…貴女のもとに還りたいな…

 死神の手先から足を洗うのと、自分が死ぬのでは、どちらが容易く叶うだろう? それに死神から足を洗ったところで、僕が他人を悲しませない保証などない。僕が生きてこの世界にいることの方が迷惑だ。もし死神から足を洗うなら、同時にこう願わねばならないだろう。“生きている人を愛する心を下さい”と。この世からいなくなるのと、生きている人達の世界で生きていくのを望むのと、どっちが僕の望みに叶うのだろう。

 僕は死を選びたかった。

 それでもまだ死神が僕を刈り取る気がないなら、それはそれで受け入れなければならない。そのためには同時に2つの願いをしてみるという手はあると思った。僕が本気で願っているのがどちらか、それでわかるというものだ。僕は逃げで選んだ道を行ってもどのみち同じように行き詰まるとどこかで思っている。真に望むなら、それがどこかへ、自分の好ましい場所に通じると…それがこの世界の法に触れようが触れまいが。

 佳彦が殺してくれなかったことをまだ根に持っているのかも知れない。本当に望んだことを法を犯したくないばっかりに実行してくれなかった。でも、それも本当にしたかったらしてるんだろう、とも思う。佳彦が僕を殺さなかったのは、僕にも佳彦にもその欲望を実行に移すほどには情熱が足りなかった。それだけかも知れない。