サンタ・ムエルテのことを調べているうちに、祈願の方法を詳しく書いてあるサイトを開いたことがあった。

『サンタ・ムエルテはメキシコの死神信仰と言えるもので、いかなる宗教の信仰者でも掛け持ちで信じることが出来る、大変懐の広い聖人です。カトリックなどと違い、堕胎や同性愛も受け入れます。そのようなわけで、昔から泥棒、強盗、殺人者、麻薬犯罪人、政治家、囚人などに信仰が厚く、現在は一般人への信仰の浸透が広がっています。サンタ・ムエルテへの祈願はどんな願望でも叶えてくれるという信頼が厚く、呪術家や黒魔術家の間でもその効力は脅威となっております。

《死の聖母への祈願》
1・サンタ・ムエルテのお守りを手に入れる。
2・エスニック系の雑貨屋、またはインターネットでサンタ・ムエルテを検索したほうが確実に手に入る。色とりどりの袋、ロウソクやパワーストーン、各種のハーブや植物などから抽出されたオイルがセットになったものなどがある。祈願の目的(魔除け、癒やし、願望成就、お金、恋愛…など)によって色の違う袋になっている。自分の願いに沿って色を選ぶ。
3・サンタ・ムエルテに供物を捧げる。生き物の屍体や生き血などではなく、お花や食べ物などを用意する。
4・お守りの袋の中に指定されたようにオイルや石などを入れて、願いを唱え、大切に持ち歩く。

 注意:祈願が成就したら、お守りのサンタ・ムエルテに感謝を捧げ、お礼のお供え物を沢山供える。感謝やお礼がないと、非常に過酷な制裁が下るとされる。お願いをして叶えてもらったら感謝を捧げて、それを供物として形にすることが大変重要である。

《死の聖母の祈り》
“何も誓わずとも、我々をお導きください”』

 最後の祈りの言葉に不覚にも感心した。何も誓わずとも、導きを。十戒や五戒を守れなくとも、盗人でも、不倫していても、嘘つきでも、人を殺してしまっても、どうぞご加護を…お導きを。

 生きている人に興味がなくても、僕を好きで近づく人を死なせても、誰にでも抱かれて身も心も狂っても…ねぇ、穂刈さん…人殺しでも救われるかも知れないね。あなたもしかして、そんなことを知っていたのかな? あなたのナイフの神も同じように。

 僕は写真立ての髑髏に心の中でそんなことを話しかけた。髑髏の目を抜けて遊んでいる蜥蜴のことを、僕はあのとき穂刈さん自身のことのように思ったが、死の聖母のことを読んで、今こうして自分の部屋で眺めていると、この蜥蜴はこの世に生きる人類すべてを暗示しているようにすら感じた。そして僕は顔も知らない自分の実の母親になんとなくサンタ・ムエルテのイメージを重ねてみるようになった。