(ほんとにやりやがったなお前)
「いえ、失敗するってわかってたんですけど…なんかもう衝動的に…やっちゃったんで…ダメですね僕。今度はちゃんとロープで首…」
全部言う前に低い声で小島さんが唸った。
(血を止めろ)
「え?」
(手当しろ!)
「なんでですか?」
(このバカっ! 死ねって言われて死ぬ奴がどこにいるんだよ!)
「言われて死ぬわけじゃないです。小島さんに言われて思い出したんです。ありがとうございます。なんか僕、混乱してたみたいで、もう何日も寝てないんで頭が働かなくて…死にたいって忘れてたみたいで…人間ってすごいですね。身体って生きようとするんですよ。寄生虫みたいで気持ち悪くて…」
(しゃべってねーで早く血ぃ止めろよ! 電話一回切るぞ。手当したら電話掛けろ!)
死ねって言ったり手当しろって言ったり、小島さんはなにを僕にさせたいんだろうか。でも、この傷では死ねない。確かにその時点で手当して、次の手を考えて準備をするべきだ。
「わかりました。では一回切ります」
ティッシュペーパーを何枚か重ねて血を止めながら誰もいない居間に下りて行き、救急箱を開けた。血を拭うと1cmにも満たない傷口が現れた。ウレタンのパッド式のキズテープがあったので、それを貼る。その上から包帯を巻いた。すると、背後で音がした。振り向くと母親が立っていた。



