僕を止めてください 【小説】




「まぁ、わかってくれたらいいのよ」
「あの…ほんとに? 本気ですか…先生」
「この子の遺体の前でつまんない冗談なんか言えないよ…この子見てると思うんだよね。だれか大人が一人でも守ってやれなかったのかって。こんなにあふれるほど人口がいてもさ、この子ひとりを守る人間が何故ひとりもいなかったって。だから…って君はもう十分大人だし、自分を守る術だって持ってるとは思うよ…でもね。私は身につまされちゃう…歳取ると思うんだよ。以前にも増して、若い子たちの行く末が心配になってくる。というか…期待したくなる。我々は死んでっちゃうからさ…君らに託して、いずれは。いろいろイビツでも才能がある若い子の居場所を作る義務が年寄りにはあるって思うんだ。それに“奇貨居くべし”って言葉もある。君のためにあるような言葉だと思うよ」
「キカオクベシ?」
「中国の古い諺だ。奇貨ってのは珍しい掘り出し物のことだよ。冷遇されてる珍しい品物を見つけたから、買っておけば値上がりするかもしれないから、今仕入れるべきだっていう史記の中の話。でもただ置いておけばいいってもんじゃない。金剛石も磨かずば…って言うだろ」
「言いますか」
「古い言い回しだらけでわかんないか。君ら若いなぁ…まぁいいさ。ダイヤモンドの原石は磨かなければ光らないってこと」
「買いかぶられても…困ります」
「じゃあルビーくらいに格下げしといてあげよう。とにかく君は私だけじゃなく、警察からも受けがいい。だけど今のままじゃ、鶴の恩返しのあれになっちゃうよ。鶴が自分の羽抜いて機織りするアレさ。特殊能力を発揮する度に君は自分を削ってるんじゃないかってね」

 そこまで見破られているとは、堺教授恐るべし、と思った。

「それでも、いづれは自分でどうにか居場所を確保するスキルは覚えて欲しいんだ。なんせ我々は死んじまう。それより死ぬ前に退職だ。いつまでも守ってあげるわけにも行かないんだ。そしていつか、君みたいな突拍子もない才能を持っている社会とソリのあわない後輩に居場所を作って上げて欲しい。それが年寄りのささやかな願いなんですよ」