と、そこまで考えて僕は気がついた。幸村さんと…一緒にいる? つまり隆と寺岡さんみたいになるってことなのか? それとも中学校のころ、隆と付き合ってた時みたいに? 僕は自分から誰かを求めることはないし(穂刈さんの事件は例外中の例外だ)、家族のように一緒に居れば恋愛感情などなくても構わないと幸村さんが言うなら、そのようにしても構わない…と幸村さんに対して思っているのだろうか?

 それを自分から求めることは決してない。それはわかってる。でも幸村さんがそれを強く望むなら、そして僕が愛や恋といった感情がなくてもいいのなら、それは可能であると、今の自分はどこか思っている…そして僕は…

 もうどこかで幸村さんを許している…?

 それはお互いにとって、とても切ないことだ…と、僕は思い、少し気の遠くなる心地がした。隆にも佳彦にも出来なかったそれを、幸村さんが成し遂げることが出来るのだろうか? 死神じゃなくなっても、僕はただ“悪魔”と呼ばれるようになるだけなのかも知れない。現にそう呼ばれたではないか。

 好きなものも嫌いなものもなくて、味も匂いも感じない、発作の時は誰に抱かれても感じてしまう、そして死の世界だけに陶酔して生きてるこの僕と、誰がどうやって一緒に生きていくのだろう。

(君は屍体だけに集中してる…そういうやつを俺は待ってた。だから惚れた)

 幸村さんのいつかの言葉が耳の奥で響いた。なんで? なんでそんなふうになる? なにをどうすればそんなことが言える? そしてそれは、どんな意味を表してるのだろう?

(君の解剖は…君自身だ…)

 やめてくれ。その言葉が脳裏でこだました。あの時と同じ、胸の奥が締め付けられる感覚がして、息苦しくなった。

 もしかして、期待してるのは僕の方なのか…?

 なぜか言い知れぬ絶望感が襲ってきた。僕はその絶望感の原因がよくわからなかった。あの頃の感覚が蘇ってくるようだった。隆と共に過ごしたあの頃の…

(君が心配してるんだろ。彼が死ぬんじゃないかって。でも彼が君のことほんとに好きだったら、死なないよ。逆に呪いを解いてくれるさ。それが究極の愛ってもんさ)

 ああ…気が狂いそうだ。脳の中を誰かが鷲掴みにして握りつぶされるような。これが呪いというものなら、確かにそれを超えて新しい地平へ立とうなど、誰も思うまい。