結局、十数年間一緒に暮らし、僕を見続けても唯一存命している実家の母親のケースしか僕は参考にすることが出来なかった。それは高校生の時から僕の認識と経験が殆ど変化していないということだった。なぜなら僕はすでにその戦略を、戸籍を見て以来、母親に再活用しているからだった。つまり、一緒にいながらほとんど無視して暮らす、ということ。十年一日のような代わり映えしない作戦に僕はため息をついた。で? これをあのしつこい幸村さんにどう応用できるんだろうか。

 考えの中で常に、穂刈さんから説教された「同じ人に抱いてもらえ」という言葉が心にのしかかっていた。

 精神論だけではない、セーフティーなセックスにも関わるその説教は、僕には決定的とも言えた。そしてそのあと畳み掛けるように幸村さんに怒鳴られた「お前を終わらせるように抱けるのは俺だけだ」という言葉もあの局面では正論だと言えた。こんなことがあって、それでも尚、僕が幸村さんに発作の始末を頼まなかったら、幸村さんは僕のことを、そして自分自身のことをどう思うか、彼の精神状況をこじらせるだけとも思えた。僕の身体はどうなるかわからないし、普通の状況であるなら次はこちらからコンタクトして来てもらうというのが正解だろう。それを考えた途端、その行為がどれだけ幸村さんの楽観主義に火をつけるかと想像して暗澹とした。

 そうなるとここでいちばんの敵は“期待”ということになる。それを封殺する作戦を立てることがここでの鍵となる。今はリミット内だからまだ猶予があると言う説明をしなければならない。僕が死神をやめられるという希望があるなら幸村さんに最低限のストレスしか与えないように画策して、リミットを長期間引き伸ばしていく必要がある。僕に恋愛感情がないことさえ納得してくれれば、死神でなくなった暁には、一緒にいようがどうなろうが問題はない…