僕は衝撃を受けた。

 そうだ。なぜ本当に死のうとしてないんだろう僕は。こんなに死にたいのに僕は少しもそれを行動に移していないじゃないか。

「考えてませんでした」
(考えたら? 死ねばいいんじゃない?)

 そうだ。粗末なカッターのせいで僕はそのことをすっかり失念していた。なぜだろう。僕はもっと確実な死に方をいくらでも知っているのに。

「そうですよね。一回考えて、僕、それを忘れてました」
(ああそう。じゃあもう一回考えればいいよな。現実的にさ)
「そうですね。ありがとうございます。電話してよかったです。これからちゃんと考えます。遅くにすみませんでした。おやすみなさい」
(ああ…おやすみ)

 僕は電話を切った。それから、なぜ僕はあれから自分を殺すことを考えるのをやめてたのか考えた。そのために、もう一度カッターを握った。チキチキチキと再び独特な音と共にカッターの薄い刃渡りが長く伸びてくる。これでは死ねない。頸動脈は切るのに3cm以上深くえぐらないといけないし手首の橈骨動脈もこの固定できない刃ではだめだ。なんで僕はそのあと自分を殺すことを忘れたんだろうか? もっと確実な方法を考え続けるべきだったのに。そのあと、僕は、僕は彼を恨んだ。恨んで…そして…なぜ次の日に縊死のための丈夫なロープを買いに行かなかったんだ…?