僕を止めてください 【小説】



「…僕には大事にしてくれる人がいます。さっき電話が来て、穂刈さんと喧嘩してた。僕はその人に申し訳ないことしてたって、そう思ってます。恋愛感情はなくても、ずっと僕を支えてくれてたのに、僕は自分がその人を傷つけると思って、避けてた。でも穂刈さんに逢って、説教されて、それは逃げてるんだって、気がついたんです…」

 変な気分だった。自分で言いながら、これは、嘘だと言いながら自分の首を絞めているような気がして、嘘の意味がだんだんわからなくなってきた。わからなくなっているにも関わらず、トミさんに僕の言っていることの意味が分かってるかどうかもわからずに、僕はその嘘と称するものを止められなくなっていた。

「…たぶん今も僕の部屋の前で待ってるんです。いつもだったら僕が部屋でのた打ち回ってて、でもなぜか僕が非常事態なのをわかって発作から解放しに来てくれるんです。仕事が忙しくても、合間に僕の面倒見に駆けつけてくれて、傷の手当とか、僕が自分で切った傷なのにね、手当してくれて、お米を買ってきてくれたりしてね、僕が拒否しても全然気にしなくて、僕の仕事を好きで…一時は互いにすごく険悪だったけど…でも信頼してもらえるような関係に…関係になっ…」

 言いながらいつの間にか僕は泣いていた。今日は涙腺の緩い日だ。穂刈さんがいけない。あの人が僕の心に刺さることするから、トミさんが可哀想だから…それにしても自分の演技で泣くなんて、僕は役者になれるとすら思った。

「…大事な人がいるなら、あんな掲示板にメールしてくんじゃねぇよ! 迷惑だからよ! オレが替わりに書きこみしたんだよ…あんたにレス出して待ち合わせのメールやり取りしてたのオレだよ。それだってひでぇじゃねぇかよ…でもあんた無口ですとかレス寄越した割によくしゃべるよな。真面目そうな顔して嘘つきなんだな」

 誰のためにおしゃべりしたと思ってるんだ…とそれを聞いて僕も少し腹が立った。そんなことわかるわけもないけど。僕だって止まんなくなった理由なんてわかんないさ…くそ…

「知りませんよ…そんなひどい人好きになったほうが悪い」
「そうだよ! オレが全部悪いんだよ! オレはさ、最初に言われたよ、俺に付いて来たら殺されるって。俺は助けになんか行かねぇって。でもよ、それでもオレはもう構わねーんだよ。あの人が淋しくなくなればさ、殺されるまでそばに居てーんだよ」

 それはなんだか以前何度も聞いたことのあるような言葉だった。