よく考えたら真夜中だった。寝てるかも知れなかったのに。野崎さんの声を聞いた途端にそれに気づいた。

「す…すみません…寝てましたか?」
(誰だよ)
「裕…です」
(ゆう?)
「あの…松田さんの…」
(あっ…ああ、裕か、お前)
「すみません。真夜中ですよね」
(起きてたよ。いいよ。どうしたんだよ?)
「え…と…」

 僕はなんと言って切り出したらいいかわからなくなった。

(松田と別れたんだろ)

 助け舟のように野崎さんはそう言った。

「はい…そうです。松田さんから聞いたんですか?」
(いや。聞いてないな。だって松田と別れたら電話しろって言ったじゃん)
「ああ、そうでした」
(お前は言ったようにしかやんないだろ?)

 よくわかってるな、この人、と思った。

「ええ、そうですね」
(で? なんで好きかどうかもわかんない俺に電話してくるのよ)
「あの…どうしていいかわかんなくかっちゃって」
(なにが?)
 
 僕は佳彦との別れを彼に話した。屍体だったのに生き返らされたこと。その結果性的な欲求で自分が苦しんでいること。元に戻る方法がわからなくて困っていること。死にたくてどうしようもなくなっていること。

「…そのうち寝られなくなっちゃって。それで野崎さんのこと思い出したんです」
(のざき?)
「野島さん、ですか」
(小島だよ。腹立つなぁ。まぁ、松田が名前覚えないって言ってたけど、どこをどうすれば小島が野崎になるっつーの)
「…すみません…ごめんなさい」

 怒らせたようだった。申し訳なく思った。少しの沈黙の後、小島さんが会話を再開した。

(で? どうしたいんだよ。死にたいなら死ねば?)
 
 いきなり小島さんはそう言った。