「カレシじゃないって言ってますよね…僕には…恋愛感情がないんですって…」
「無くてもいいじゃん。フラフラ男漁ってると病気もらうよ。絶対セーフでしろよ。それこそ死神になっちまう。彼に感染したらどうすんの。相手は一人がいい…ああ、浮気すんなって彼に言うんだぜ。それ、忘れるなよ。君だけ気をつけてたってダメだからね」
さすがにそれには反論出来なくて僕は黙った。僕がエイズにでもなったら破滅的だ。穂刈さんは僕の頬や肩に唇を落としながら話を続けた。
「君が心配してるんだろ。彼が死ぬんじゃないかって。でも彼が君のことほんとに好きだったら、死なないよ。逆に呪いを解いてくれるさ。それが究極の愛ってもんさ」
そう言いながら穂刈さんは僕の顔を覗き込むと、口をへの字に曲げて、眉根を寄せた。
「でも君ともう少し一緒に居たかったな…いつもはあんまり思わないんだけど」
その言葉が、僕の心に刺さった。誰の側にも居ちゃいけない人の涸れ果てたような寂寞が一瞬見え、それが僕の胸を襲った。また涙が溢れそうになった。
「僕は…一晩で十分ですよ…穂刈さん…」
「うん、そうだな。それでいい」
うんうんと頷くと穂刈さんは一瞬なにか考えていた。そして微笑みながら言った。
「ねぇ…俺の髑髏にさ、キスしてよ。君は俺の背中の髑髏なら多分愛せるだろ?」
「はい……その…通りです…」
「俺が葬ってきたみんな…だ」
ゆっくりと彼は起き上がり、片膝をついて背中を向けた。均整のとれた筋肉と滑らかな皮膚の上の、暁斎の美しく端正な線で描かれた髑髏が僕を見ていた。その眼窩にしっぽを残して抜け出たトカゲ…それはまるで死人の中を縫って生きている穂刈さんそのものだった。髑髏には僕の血が付いていた。しがみついた僕の指の痕だった。なにも揺らさないように、僕はそっと両手をその肩に置いた。僕は初めて背中から人の両肩を抱いた。
唇を背中に押し当てた瞬間、彼は軽くのけぞり、息を飲んだ。その音があまりに切なくて、僕は唇を離すと、そのまま額を背中につけて泣いた。もう声も出なかった。僕達はそのまましばらくそうしていた。この先、二度と逢うこともない二人が。



