「…ああ、あんた…ヒロシ君のカレシ?」
「ちょ…穂刈さん! ダメですってば!」
僕は慌てふためいて携帯を奪いに掛かったが、穂刈さんの足で簡単に蹴り飛ばされて、布団に転がった。もしや修羅場というやつではないか? これは…
「いや、番号間違ってないよ。ちゃんと捕まえとかないとヤバいよ、この死にたがりのお医者さんは。あんたが頼りなんだからね。わかってんの? トロいこと言ってるとお持ち帰りしちゃうよ〜」
「お願いします! 携帯返して!」
すがる手を振り払われ、また突き飛ばされた。電話口から幸村さんの怒号が漏れてくる。そこで気づいた。修羅場とかそれ以前に、この二人は殺人犯と、そいつを追ってた刑事じゃないかということに。お互いに気が付かないで全く別の話で電話で喧嘩してる冗談みたいなこの現実に、どうしたらいいのかわからなくて、スーッと気が遠くなりかけた。
「冗談だよ。怒鳴るなって。今から帰すから。言っとくけどヒロシ君から誘われたんだからね、俺。ああ……え? そう。まあいいじゃないか。彼、いい子だよね。なんでさっさとモノにしないの、そんなに心配ならさ。呪いをさ、解いてやってよ。じゃ、ちゃんとそこで待ってろよ」
あまりのスレスレの状況に頭の中が真っ白になったまんま、僕は呆然とそれを見ていた。ある意味現実逃避だった。穂刈さんは言いたいことを言うと、勝手にプチッと電話を切った。
「はい、終了〜」
その声で、僕はいきなり正気に戻った。
「ななな…なんてことしてくれたんですか!!」
「あれ、怒ってる?」
「怒りますよ! 電話してくるあの人もほんっとに勝手な人だけど、穂刈さんもそれと同類ですか!!」
「ええ〜? 君と関わるとみんなこうなるんじゃないかなぁ。だってヒロシ君頑固過ぎるもん。あ、ヒロシ君本名じゃないんだね。俺は本名だけどね。岡本君」
「おっ…岡本じゃありませ…」
「カレシが岡本って言ってたぞ」
「岡本も…偽名ですから!」
「へぇ、そうなのか。良い切り返しだなぁ、頭いいのか悪いのかわかんないよ、岡本君」
そんなことを言っているうちに僕の携帯がまたすぐに鳴った。それを穂刈さんは電源ごと切った。僕はその携帯をようやくもぎ取った。穂刈さんは笑って自分の携帯を服の中からゴソゴソ探しだした。
「あ、トミ? ごめん、寝てた? 大丈夫? うん…うん…そうそう…じゃあよろしくね」
自分の携帯を枕元に放り投げると、携帯の電源を入れ直している僕をもう一度押し倒した。
「すぐ迎えに来るよ。トミ、嬉しそうで可笑しかったなぁ」
「トミさんに…悪いです」
「いいんだよ。俺の世話係だからさ。それに一緒に仕事してから好かれててさ。アイツ俺に気があるんだって。君に焼きもち妬いてるんだ」
それで車の中で穂刈さんが僕にちょっかい出してるのを「勘弁して下さい」だったのかと、ようやく理解した。
「僕の送り迎えなんて、可哀想だ…」
「でも俺は今夜はここで缶詰だからな。君を送って行きたいが、そうもできん。まぁ、さっさと君を送り届けさせて、トミとはここでしんみり二人で夜食でも食うわ。いや、君のカレシめっちゃ心配してたからな。トミと鉢合わせしないとこに降ろしてもらえよ…なんだか俺もちょっと妬けるな」
そういうと僕の唇にキスして、強引に舌を口腔に挿れた。ビクン、と身体ごと反応した自分が恥ずかしくて、僕は横に顔をそらして言った。



