身体を拭かれて布団の上に裸のまま投げ出された。これからイケないまま、どれくらい嬲られるのだろうか。それを思うと例の焦燥感が体中に充満してきた。手にメスを持ってたら、迷わず頸動脈を切り刻んでいただろう。不意に自分で自分を落とせばいいと気付き、わななく両手で自分の喉に指を回そうとした。
しかしその手は首に届く寸前で穂刈さんに搦め取られ、浴衣の帯で両手首を縛られて、両足首にその帯を繋がれた。屠殺場に行く羊が、逆さ吊りにされて棒で運ばれていくような形になった。帯で戒められた身体は焦燥感を更に募らせた。自分で慰めることも出来ない。逃げることも出来ない。硬い性器をなにかにこすりつけることも出来ない。もう出ない声を振り絞るように叫んだ。
「んあああああぁ! 出してぇ! イカせて! イカせて下さい!! あたまおかしくなるぅぅぅ!」
「ダメって、言ったら?」
しゃがんで僕を見下ろしている穂刈さんの足に、全身をくねらせながら体をこすりつけた。僕は泣きながら再び懇願していた。そんなことをしたらますます焦らされるとわかっていても。
「ダメって…言わ…ないで…」
「ダメだな」
落ち着いた声で精一杯の懇願を全否定された途端、絶望感が一気に心の中から噴き出してきた。あとはもうこれを願うしか僕には思いつかなかった。
「こ…殺し…て…くだ…さ…い…」
それを聞いた穂刈さんは口の端を片方だけ上げて見下すように笑った。
「へぇ。そういうこと言うんだ、君って」
「い…いつも…死にたいのに…だ…だ…だれも…殺して…くれ…ない…」
「自分でどういうこと言ってるか、わかってる?」
「ええ…」
その瞬間、顔の前にストッと何かが落ちる音がした。涙で霞んでいてそれは銀色に滲んでいた。
「見えてる?」
「な…に…?」
布団で顔を拭った。もう一度目の前を見ると、布団に銀色のナイフが刺さっていた。口金に桜の透かし彫があった。どこかで…見た…朦朧とした記憶でそう思った。穂刈さんはそれを抜いた。そして今度は腕を振り上げ、力いっぱい僕の目の前にそれを突き立てた。ダメだ…僕に突き立ててくれないなら、こんなことしてもしなくても…同じだ…
僕は綺麗に磨かれた刃に映る僕の顔をボーッと眺めていた。
「君…」
その時、驚いたように穂刈さんが呟いた。
「君は…反射がないのか?…目を閉じないのか?」
「なぜ…僕に突き立てない…」
「普通は身体が自然に逃げる」
「逃げたら…死ねないでしょう?」
それはチャンスだった。僕は目の前に立っているその刃に自分の首が当たるように、反動をつけて身体を一気に折り曲げた。



