隣に知らない男の人がいて、どこに行くかもわからない車に乗っているのに、僕の身体はそれどころじゃなかった。車の振動が身体に響いて困った。不意に道路の段差で車がバウンドした。会陰に衝撃が伝わり、耐え切れないほど性器と下腹が疼いた。背もたれに寄りかかり、思わず頭をシートに押し付けて目を閉じて大きく息をついた。それを見て隣の男は訝しげな目で僕に尋ねた。
「もうキメてんのか」
「い…いいえ…」
「嘘、つかなくてもいいよ」
「嘘じゃ…ないです…」
「こんなになってても?」
いきなり肩を抱かれて引き寄せられたかと思うと、反対の手で股間を掴まれた。ビクッと全身が引きつった。
「うくっ…」
「なに入れたの、そんなにテンパッて」
「ちっ…違います」
「最初から飛ばすね、君…おとなしそうな顔して、淫乱か。キメてんだろ。大丈夫だよ。サツにチクったりしない」
「してない…クスリなら…まだマシです…」
「ふうん…どういうこと?」
「体質です…発作…っていうか…」
「へぇ…淫乱な体質だね」
「出せば、治まります。そんな…頻繁に起きません…」
「それでか…彼氏いないの?」
「いません」
「自分ですればいいのに」
「自分でするの…下手なんです…それに最近感覚が…麻痺してて…くあっ…」
話しながら男の人は僕の股間を弄っていた。性感が突き上げてくる。一瞬意志とは裏腹に腰が浮く。即時に、本当に誰でもいいことが証明されてしまった。
「マヒ? これで?」
彼は呆れたように笑った。
「他人の手だと感じます。だから…どうしようもなくて…頼みました。すみません」
「すみませんって…謝るなって」
そう言って彼はまた笑って股間から手を離した。笑い方はさほどいやらしくなくて、意外と不快感を感じる人ではなかった。
「あの、兄貴…」
「ああ、ごめんごめん」
なぜか、手下からツッコミが入った。この二人はどういう関係なんだろうか。見ててもよくわからなかった。堅気ではない雰囲気は二人から伝わってくるが、ピリピリした空気は感じなかった。
「いやさ、彼もう出来上がっちゃってるから、ついね」
「え…キメてるんすか」
「違うらしいよ。体質なんだって。面白いね」
「まさか」
「まさか、だよなぁ」
「でも今はちょっとカンベンして下さいよ。オレ、事故ったらマズいっすよ」
「でもさ、可哀想じゃない。お前、運転変わるからイジってやれば?」
「いや、勘弁して下さいって兄貴。頼みますから」
「そういうわけでゴメンな、ヒロシ君。事故られるとマズいし。宿までおあずけみたいだ」
手下…なのかなんなのか、ドライバーに頼まれて、なぜか“兄貴”は僕に謝った。変な関係だった。こういう人たちって上下関係厳しいんじゃないのかな。宿、ってどこだろう。というかなんなんだろう。ホテルなのか、自宅なのか、なんなのか…
車は県道を走っていった。だんだん街の明かりが少なくなり、カーブが多くなっていく。勾配が上がり始めた。両側は真っ暗で、目を凝らすともう林道に差し掛かっていた。



