僕を止めてください 【小説】




 丸屋の裏手にあるパーキングは広く、そこの入り口に僕は立っていた。まだスーパーは営業中なので、チラホラと車が出入りしていた。黒のカローラ・フィールダーに乗っているはずの待ち合わせの主はまだ来ていない。湿気はますますひどく、半袖のシャツを着ていても外気の不快さは半端無かった。身体がだるく、発作で足が震える。仕方なく片手で金網につかまり身体を支えていた。座りたい…動悸がひどくてつらい。

 こちらの風体はメールで知らせてある。水色の半袖オックスフォードシャツにベージュのチノパン、メガネ。仕事から帰ってきた時の格好と同じだが。というか、梅雨から残暑が終わるまではこの格好しかしない。だいたい自分で服を買うこともない。面倒なので、服がダメになると未だにこれだけは母親に頼んで適当に買ってもらい、宅急便で送ってもらう。支払いは購入金額を振り込むと電話で母に言うのだが、未だに金額を教えてくれることはない。それも数年に一度のことだ。さすがに靴だけは自分で買うしかない。大学時代にそれを母に相談すると、「靴はローファー買いなさいね。今、裕が持ってるのはローファーっていうのよ。」と言ったので、靴屋ではそう言って出してもらうことにしている。結局は高校の頃と変わりない靴だし、仕事着は母が買っていた高校の頃の私服とさして変わらない。

 高校三年生の時から身長も体重も殆ど変わらない。母の趣味で確か“アイビー”とかいうものらしかった。アイビーがなんだかよくわからないけど。秋冬用はVネックのウールのセーターとかカーディガンとかベストが送られてくる。上着は紺ブレで、色違いの開襟のオックスフォードシャツ…長袖と半袖、ボタンダウン、と同系色のチノパンがクローゼットに並んでいる。それでか、服装について揶揄されたことはない。母親のセンスのお陰だろう。首を締め付けられないので、ネクタイは基本しない。佐伯陸が僕の着替えを見ながら「裕さんっていつもポロ着てるんですね!」とか言っていた。それもいまいちイミフだった。

 苦しさを紛らすために、金網にすがりつきながら、体感から気をそらす興味のない服のことを考えて時間をやりすごした。時折自分がここでなにを待っているのか忘れそうになった。

 何度目かの車の音がして、ヘッドライトが道いっぱいに横切った。バン、という音がした。車のドアが閉まる音だった。

「あの、あんたヒロシさん?」

 僕の背中から声がした。